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"消えた夫と十二時十分の弁当" 第15話

のれんをくぐる音

夕暮れがづくにつれ、の空がい茜から群青へとグラデーションを描いていった。

午を回り、商の精肉や百のかりがつ、またつと消えていく。

半に吉田さんを「お疲れ様でした」と送りし、私は内の片付けを始めた。

揚げ油のを落とし、フライヤーの周りの油ねを洗剤で拭き取る。

ガラスのショーケースに残ったポテトサラダやきんぴらごぼうの鉢をラップで包み、蔵庫へしまう。

を通るの音もまばらになり、折、くをるの警笛だけが響いていた。

分。

そろそろ表の板のかりを消そうと、腰に巻いたエプロンをしかけた、そのだった。

カランコロン――。

引き戸につけた真鍮のドアチャイムが、涼やかな音をてて揺れた。

「すみません、もう片付けに入っちゃって……」

私がショーケース越しに顔をげ、言葉が喉の奥で止まった。

紺ののれんを押しげてっていたのは、修司だった。

スマートロッカーのでもなく、暗い裏の非常階段でもない。

のるい蛍灯のを真正面から浴びて、彼は客として、私ののにっていた。

着ているのは、昼の仕分け作業で着たのだろう、洗濯の効いたな半袖シャツだった。髪はく刈り込まれ、肩にはあの古いリュックサックを背負っている。

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ヶのような、怯えて線を泳がせる気配は消えていた。

ただ、どこか緊張した面持ちで、私の顔をまっすぐに見つめていた。

「……まだ、何か残ってるか」

数ぶりに、面と向かって交わす会話だった。

私は息をえ、調理台のにを置いた。

「Aセットなら、だけ、材料があるわ」

「そうか。……じゃあ、Aセットをつ頼む」

修司はカウンターに歩づいた。

客と員を隔てる、幅センチほどの製のカウンター。

かつては毎のように夫を送りし、迎え入れていたその境界線が、今はひどく鮮で、厳粛なものにじられた。

「梅干しは?」

私が械に尋ねると、修司は即座に答えた。

「……抜いてくれ」

「玉子焼きは? 切れ追加する?」

私は彼を見つめた。

昼、私が蓋の裏に貼ったメモの文字を、彼はっている。

かつての甘えを許すか、拒絶するか。その選択を、私は修司自に投げ返した。

修司は瞬だけ元を緩め、自嘲するような、けれどどこか吹っ切れた穏やかな表で言った。

「いや。……普通でいい」

普通でいい。

もう、自分だけを特別扱いさせない。余分な甘さを求めない。

そのい言葉に込められた決が、痛いほど胸に響いた。

「千円ね」

修司はポケットから使い古したつ折りの財布を取りし、千円札が枚と、円玉を枚、会計用のステンレストレイに置いた。

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匿名のアカウントでも、会社の名義でもない。

彼が、い荷物を運んで稼いだ、本物の現だった。

私はお札の端を揃え、レジに収めた。

厨へ戻り、を落としかけていたガスコンロに再びを入れる。

めかけた姜焼きを温め直し、ご飯をよそい、切れだけの焼き玉子を詰めた。

プラスチックの容器を輪ゴムで止め、袋に入れる。

「お待たせしました」

トレイのに弁当の袋を差しす。

修司がを伸ばし、取っを握った。

その指先が私の指にかすかに触れた。たく引きつっていたあの曜とは違い、男の皮膚には、労働のがじんわりと宿っていた。

修司は袋を受け取ると、胸のに抱えるようにして持ち、々とをげた。

「……ありがとう。いただきます」

『すまなかった』ではない。

過を帳消しにするための陳腐な謝罪ではなく、目のの事に対する、真っ直ぐな謝の言葉だった。

「気をつけて帰ってね」

私が言うと、修司は「ああ」とく応じ、振り返ってのれんをくぐっていった。

夜の商へ消えていくその背は、まだし丸まっていたけれど、度と逃げさない男の取りだった。

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