"消えた夫と十二時十分の弁当" 第14話
最の回
修司がてってから、が過ぎた。
彼が会社のくにある築の階建てアパート――畳の呂なし物件を、持ちのと分証だけで期契約したことは、から藤田さん伝いに聞いた。
物流の運管理デスクからは完全にされたが、朝からの資材倉庫の仕分け作業に、毎朝作業着を着て通っているという。
は以の半分くだが、無断欠勤の穴を埋めるように、黙々とパレットを運んでいるらしかった。
奈央のスマートフォンには、折、修司からぎこちないメッセージが届くようになった。
『今は暑いから分を取れよ』
『推薦の願、無事にせただろうか』
奈央は度も返信しなかったが、メッセージを削除することもしなかった。画面をじっと見つめた、机のに伏せて置くのが常だった。
そして、曜の昼。
商はの陽射しに包まれ、うちの先にも揚げ物のばしい匂いが漂っていた。
正午を過ぎ、客が段落した分。
ジジッ……と、キッチンプリンターがい音をてた。
もう鳴ることはないとっていた、あのオンラインの注文端末だった。
吉田さんが洗い物のを止め、驚いたように私を見た。
私は濡れたを布巾で拭い、械のへとみた。
滑りてきたレシートには、見慣れた文字が並んでいた。
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【Aセット】
・梅干し抜き
お届け先:〇〇スクエアビル 1階ロッカー
そして、そのの備考欄。
【最の回。】
文字だけだった。
「……、これ」
吉田さんが声で尋ねる。
「どうする? 受ける?」
私はレシートを指先でなぞった。
『最の回』。
彼はもう、ロッカーという隠れ蓑を使って私に甘えるのをやめるつもりなのだ。
ヶ、彼が現実から逃避しながら、それでも私との細い命綱として頼り続けた『画面越しの昼飯』に、自ら終止符を打とうとしている。
「作ります」
私はフライヤーのにった。
鮭の切りをばしく焼きげ、豚の姜焼きをタレに絡める。
ご飯をよそい、米の真んに梅干しは入れない。
そして、玉子焼き用の角いフライパンに油を引いた。
ボウルに卵をつ割り入れ、汁と砂糖をなめにして溶く。
ジュウジュウと気よい音をてて、黄い層がなっていく。
まな板のに載せ、包丁を入れる。
いつもの修司なら、角の分いところを余分に切れ入れ、切れ並べるのが『Aセット・玉子焼き追加』の決まりだった。
けれど、私は包丁を止めた。
弁当箱の隅に詰めたのは、通常の、い切れだけだった。
追加の玉子焼きは、入れなかった。
彼はもう、何でも目に見て甘やかしてくれる妻の庇護にいる夫ではない。
自分の稼いだで、自分の腹を満たす、の独した男としてたなければならないのだから。
私はレジの引きしから、の無のメモ用を枚取りした。
油性ペンで、にだけいた。
『次からべたいなら、自分でに買いに来てください。』
それをテープで弁当箱の蓋の裏側にしっかりと貼り付け、輪ゴムで留めた。
「お願いします」
配達員の男の子に袋を渡す。
バイクのエンジン音がざかっていくのを、私は厨の換気扇の真で見送った。
午。
端末に『受取完』の通が表示された。
蓋をけ、切れしかない玉子焼きと、裏側に貼られた私の文字を見たの彼の顔を像した。
泣いたかもしれない。悔しがったかもしれない。
けれど、もう私が彼の代わりに痛がってやることはない。
それが、、違った優しさで夫を窒息させてきた私の、最の落としだった。