"消えた夫と十二時十分の弁当" 第9話
油のえ切ったフライヤー
突きばされた首には、赤の筋がくっきりと残っていた。
に戻ったあとの記憶はほとんどない。
配して駆け寄ってきた吉田さんに「なんでもないから」と作り笑いを浮かべ、夜の仕込みを械のようにこなした。
夜に、台所で湿布を貼りながら、の唸り声を聞いていた。
『おのその息の詰まるような優しさも……全部いんだよ』
の奥で、修司の叫びが何度もリフレインした。
、私は何をしてきたのだろう。
夫がでどんな屈辱に耐え、どれほどすり減っていたのか、何つ気づいていなかった。それどころか、限界を迎えて逃げした男に向かって、私は何と言った?
「私が何とかするわ」「あなたは何も配しなくていい」
あの、修司の目に宿った本物の怯えをいすたび、指先がたく凍りついた。
私は夫を救おうとしていたのではない。
『すべてを許し、すべてを解決する正しい妻』という自分の居所を、必に守ろうとしていただけだったのではないか。
翌の曜。正午を過ぎた厨は、注文ので戦のようだった。
分。
ガガガッと音をてて、キッチンプリンターがいた。
【Aセット】
・梅干し抜き
お届け先:〇〇スクエアビル 1階ロッカー
備考:今も同じで。
吉田さんが息を呑み、私の顔を横目で伺った。
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「……、どうする?」
私のは、吸い寄せられるように注文端末のへといていた。
画面には、注文を破棄するための赤い『キャンセル』ボタンが点滅している。
指を伸ばした。
これを押せばいい。あんなひどい言葉を投げつけ、族を獄に突き落とした男に、なぜ私が飯を作らなければならないのか。突き放せばいい。自分で勝にてったのだから、勝に飢えればいい。
なのに、指先が震えて、どうしても画面に触れられなかった。
「……?」
私は無言で呼吸をつ落とし、フライヤーのスイッチを入れた。
油の温度ががるのを待つ、勝にがいて、方形の弁当箱に米をよそっていた。梅干しを入れず、甘い玉子焼きを切れだけ端に収める。
、何千回と繰り返してきた筋肉の記憶が、私の志を裏切って勝に作業をめていく。
「……作ります」
絞りすような声がた。
「作って、届けます。あいつがべるかどうかは、向こうの勝だから」
自分が惨めでたまらなかった。
あんなに拒絶され、首を振り払われたのに、私はまだ夫の昼飯を作っている。
温かい姜焼きをアルミカップに盛り付けながら、私は自分の底れない執着のさに、吐き気すら覚えていた。
配達員がロッカーへ向かい、分に「受け取られました」の通が届いた。
修司は、今もべたのだ。
私を拒絶し、逃げしておきながら、私の作った飯だけは、喉を通している。
その歪な事実に、胸の奥で何かが静かに、けれど確実に音をててひび割れた。