"消えた夫と十二時十分の弁当" 第5話
ぬるくなった缶コーヒー
曜の午。
オフィスの裏にある喫茶は、モーニングの客が引き、静まり返っていた。
私の向かいの席に座った藤田さんは、運ばれてきたアイスコーヒーのグラスに度もをつけず、丸めたナプキンを指先でいじり続けていた。
修司と同じ物流会社で、もうく同じ課にいる同僚だ。をし過ぎたばかりの背は、記憶のの姿よりずっとさく丸まっていた。
「……奥さん、本当に警察からも何のがかりもないんですか」
藤田さんの声はく、かすれていた。
「警察は、自発に姿を消した能性がいと言っています。でも、会社にもかず、携帯も通じなくて……藤田さん、失踪するの修司の様子で、何かい当たることはありませんか。どんなさなことでもいいんです」
私は膝ので両をく握りしめた。
を吉田さんに任せ、をげて藤田さんを呼びしたのは、会社ので修司がを許していた唯の相が彼だったからだ。
藤田さんは線を泳がせ、喉仏をさせた。
何かをっている。だが、それをにすることをひどく恐れているような目だった。
「藤田さん、お願いします。あの子……奈央も、父親が急にいなくなって、まともにご飯も喉を通らない状態なんです」
嘘だった。奈央はご飯をべないどころか、りで父親のを拒絶し始めていた。
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けれど、そう言わなければ、こののいをかせることはできないとった。
藤田さんはく息を吐き、ので汗の引いた額にを当てた。
「……が、会社の編成からされたのはごでしたか」
「え?」
を疑った。
修司は運管理の主任で、毎の与細にも役職当がきちんと記載されていたはずだった。
「先の半ばですよ。うちが扱っていたの品ルートで、委託先のドライバーのな過積載と労基違反が発覚しましてね。現の責任者だったが、すべての責任を被る形になったんです」
「でも、修司は真面目筋で……」
「ええ、のせいじゃない。が無理な納期を押し付けた結果です。だが会社は誰かを切らなきゃならなかった。首にはなりませんでした。けれど、運管理のデスクからされ、郊の資材倉庫の庫管理へ異を命じられたんです。実質な遷ですよ。役職当もなくなって、現の若い連からを叩かれるような部署です」
胃の奥が雑巾を絞られるように痛んだ。
先の旬。修司は何事もなかったかのように毎晩に帰り、「今も暑かったな」と言って缶ビールをけていた。
そんな獄のような屈辱をわっていたなんて、私は爪の先ほども気づかなかった。
「あいつ、昼休みにでビルのへくようになったんです」
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藤田さんは、氷が溶けて滴が垂れたグラスをじっと見つめながら続けた。
「ある、私が缶コーヒーを持って声をかけにったら、あいつ、ぼんやり空を見て笑ったんですよ。『藤田さん、会社ってヶくらい無で休職する続きって、どうやるかってますか』って」
「休職……ですか?」
「ええ。病気の診断もないのにどうするんだって聞いたら、『いや、冗談です』って誤魔化してね。でも、そのあとポツリと言ったんです。『俺がからに帰らなくなったら、うちの族はどうなるといますか』って」
指先がたく凍りついていく。
「私は笑いばしたんです。『奥さんにド突かれるだけだからやめとけ』って。……あいつ、あの、どんな顔をしてたか。私は、なんであのにあいつの肩を掴んで、もっと踏み込んでやらなかったのか……」
藤田さんの目元に、赤くにじんだ涙が浮かんでいた。
彼はっていたのだ。修司が限界を超えて軋んでいたことを。
そして、同じ根ので暮らしてきた私だけが、何もらなかった。