"消えた夫と十二時十分の弁当" 第4話
コレステロールの数値
曜の朝、私は朝くから厨の仕込みをしながら、ずっと計の針ばかりを気にしていた。
修司の会社は隔週で曜も午だけ稼働している。
もし今も注文が入るとしたら、やはり分のはずだった。
昨夜、奈央は私が卓に置いためたから揚げを瞥し、「いらない」と言って部にこもった。結局、そのから揚げはラップをかけられたまま、今も蔵庫のでたくなっている。
夫が何を背負い、何から逃げているのかは分からない。
けれど、彼が逃げ込んだ暗のせいで、残された族の常は確実に削り取られ、壊れかけていた。
午の忙しさが段落し、正午のサイレンがくの防災無線から響いた。
分。
分。
私はレジの横にある注文端末のにち、じっとその画面を見つめていた。
汗でエプロンの布が湿っていく。
来ないでほしいといういと、来なければ本当に彼が消えてしまうのではないかという恐怖が、喉元でせめぎっていた。
ピピッ――。
分、正確無比に械が反応した。
が滑りてくる。
私はを乗りすようにして、印字された文字を目で追った。
【Aセット】
・梅干し抜き
お届け先:〇〇スクエアビル 1階ロッカー
そこまでは、昨までと同じだった。
だが、そののを見た瞬、私の呼吸が完全に止まった。
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【玉子焼き、今は増やさないでください。】
備考欄にかれていたのは、それだけだった。
「え……?」
横から覗き込んだ吉田さんが、首を傾げた。
「今は玉子焼き、普通でいいのかしら。珍しいわね、さんが追加しないなんて」
吉田さんには分からない。
この文が持つ、決定なが。
失踪する週の夜の景が、鮮烈に脳裏に蘇った。
卓の端に、修司が会社から持ち帰った定期健康診断の結果票が無造作に置かれていた。
総判定は『経過観察』。
悪玉コレステロールの数値が、よりもらかにねがっていた。
『修司、これ見てよ。数値、がってるじゃない』
私が結果票を指さすと、修司は缶ビールを持ったまま、決まり悪そうにを掻いた。
『最、昼飯に肉がかったからな……』
『うちのお弁当でも、毎甘い玉子焼きつもべてるからでしょ。来から、追加するのやめようね。本焼くのに卵つも使って、砂糖もたっぷり入れてるんだから』
私がし言めいた調で言うと、修司は苦笑いしながら、さく頷いたのだ。
『分かったよ。来からな』
あの会話は、夜の台所で、私と修司のきりで交わしたものだった。
奈央はすでに寝ていたし、会社の同僚がるはずもない。
世界で、私と彼しからない約束だった。
震える指先で、レシートのをく握りしめた。
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指の腹に、のたい触がめり込む。
彼は違いなく修司だ。
そして修司は、この注文を画面越しに見ているのが私だと、完全に分かったで送ってきている。
私と会話をしているのだ。
「ちゃんときている」「おの言う通り、玉子焼きは減らしたぞ」と、弁当のカスタマイズを通じて、回しにメッセージを投げつけてきている。
りと、恐怖と、得体のれない悔しさが、胃の底からせりがってきた。
なぜ。
きているなら、なぜ言「無事だ」と話を寄越さないのか。
なぜ、私が作ったものをに運びながら、に帰ってこようとしないのか。
私は彼に何をさせたというのだろう。
、文句も言わずに働き、毎温かいご飯を作り、夫の健康を気遣ってきた。
その私の常を方に引き裂いておきながら、彼はなぜ、私の料理という細い糸だけを、必に放さずに繰り寄せているのか。
「……? 丈夫?」
吉田さんの配そうな声が、くから聞こえた。
「吉田さん」
私は顔をげた。
声は微かに震えていたが、瞳の奥の迷いは消えていた。
「玉子焼き、切れだけで詰めてください。……それと、曜の昼、私、しを抜けます」
私はレシートを握り潰すようにしてポケットにねじ込んだ。
もう、画面越しに彼の注文を待つだけの毎は終わらせる。
彼が毎あのロッカーに現れるのなら、直接、その顔を見て確かめてやる。
彼がこの、体何を隠し、何から逃げしたのかを。