みかん小説
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"消えた夫と十二時十分の弁当" 第1話

梅干しを抜いたAセット

、夫の好みに迷ったことは度もなかった。

「Aセット、梅干し抜き。玉子焼きつ追加ね」

商の裏にある坪らずの私の弁当で、夫の修司が頼むものは決まっていた。

うちのAセットは、替わりの焼き魚と姜焼き、それにほどのきんぴらごぼうが入った番気の幕の内だ。修司は米の真んに梅干しの赤いが染みるのをひどく嫌い、その代わりに甘めの焼き玉子をもう切れ、弁当箱の隅にぎゅうぎゅうに詰め込むのを好んだ。

で週に伝ってくれている吉田さんも、話で注文を聞くまでもなく、その声だけで復唱するのが常だった。

「はいはい、さんね。玉子焼き、今も端っこの分いとこ入れとくわよ」

修司は内の物流会社で運管理の主任をしていた。

朝分にをて、夜はだいたい過ぎに帰ってくる。

特にを語りうような夫婦ではなかったし、かといって目った諍いもなかった。週末にくのスーパーへ買いしにき、末には互いの実に顔をす。歳になる娘の奈央がに入ってからは、会話のはもっぱら学費やのことに移っていたけれど、それはどこの庭でも同じだとっていた。

常が平穏に回っていることと、夫婦の関係がうまくいっていることは、完全に同じだと信じて疑わなかった。

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歯が狂ったのは、の蒸し暑い曜の朝だった。

修司はいつも通り、アイロンのかかったいグレーのワイシャツを着て、玄関で革靴のかかとを踏まずに丁寧に履いた。

「傘、持ってったほうがいい?」

駄箱のの折りたたみ傘を指さして、彼が聞いた。

「昼過ぎからパラつくみたいよ」

私が台所から布巾でを拭きながら答えると、修司は「そうか」とだけ言って、傘を鞄に滑り込ませた。

「じゃあ、ってくる」

「ってらっしゃい。気をつけてね」

それが、ので交わした最の会話になった。

そのの夜、を過ぎても修司は帰ってこなかった。

事故や急な残業なら連絡が入るはずだったが、携帯を鳴らすと、無質な音声が流れた。

『源が入っていないか、波の届かない所に……』

奈央とで先にえ切った豚汁をすすり、付が変わるまで待った。

翌朝のになっても、玄関の鍵がく音はしなかった。

嫌な汗が背を伝うのをじながら、私は修司の会社に話をかけた。総務課の話にた男性は、私の名乗りを聞いて瞬息を呑み、困惑した声で言った。

「あの……奥さん。さん、昨の朝から社されていませんよ。無断欠勤なんて今まで度もなかったから、うちでも事故に遭われたんじゃないかと配していたんです」

の裏から血の気が引いていくのが分かった。

昨から来ていない。

では、あの朝「ってくる」と言って傘を持ってかけた夫は、体どこへ消えたというのだろう。

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