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"不妊扱いされたサレ妻と、91歳の秘密" 第1話

リビング央のローテーブルを挟んで、夫の信弘は革張りのソファにくを沈めていた。 組んだの爪先を刻みに揺らし、両腕を背もたれのに横柄に広げている。その唇の端には、これ以ないほど骨な嘲笑が張り付いていた。

私をからまで、まるで値打ちのない良品でも品定めするかのようにねめ回すその瞳には、かつて交わしたはずのの欠片すら残っていなかった。 私はダイニングチェアの背もたれを両で固く握りしめた。指の関節がくなるほど力を込め、爪がのひらにい込む痛みに耐えながら、目のの男の顔を凝した。 信弘のい唇が、勝ち誇ったようにゆっくりとかれた。

「おが妊なのが悪いんだよ。これから子供を持って幸せになる夫婦を気遣ってさ、介護の必な老と緒にさっさとこのをていけ」

内の空気が瞬にして凍りついた。 あまりに酷で、あまりに勝な言葉の暴力。 信弘は自分がにした言葉がどれほど理尽で残酷なものか、そして妻である私がどれほどく切り裂かれ、血を流しているのかなど、像すらしていないようだった。ただ、目のの邪魔者を首尾よく追い払う実を見つけし、自らの正当性を信じて疑わない愚かな万能に酔いしれているだけだ。

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私の胸の奥底で、何かが音をててえ切っていった。 しみや絶望の波を突き抜けて、研ぎ澄まされた刃のようなりが全の血を巡る。 (このまま泣き寝入りなんて、絶対にしない……) 歯の根を噛み締め、私は震えそうになる呼吸を必で腹の底へと押し戻した。今ここで取り乱して叫んだり、涙を流して縋り付いたりすれば、この男の歪んだ優越をさらに満たすだけだ。 私は背筋をわずかに伸ばし、信弘の瞳の奥を真っ直ぐに見据え返した。 私と婚して、せいぜいその浅ましいに溺れていればいい。やがてすべての真実をった、自分がどれほど取り返しのつかない破滅の穴にび込んだのかをいり、骨の髄まで悔すればいいのだ。

私の名はけい子。今で歳になる既婚の女性だ。 、歳である信弘と結婚した直、彼のい懇願によって勤めていた会社を退職し、それ以来はずっと専業主婦として庭を守ってきた。 今で歳になる夫の信弘とのに、子供はいない。 授かりたいといういはずっと抱き続けていたものの、夫婦の寝はいつしかえ切り、会話も事務なものばかりが増えていた。 その代わりと言っては何だが、私たちの暮らすこの軒には、もうの同居がいた。 夫の実の祖母——今で歳になる、おばあちゃんだ。

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信弘の両親は、彼がまだというな期に、慮の病気と事故がなり相次いで若くして界してしまったのだという。寄りを失いかけたなを、いで引き取り、女つで育てげたのが、このおばあちゃんだった。 当たりが柔らかく、いつも縁側で向ぼっこをしながら穏やかに微笑んでいるような、絵に描いたようなおっとりとした性格のおばあちゃん。 だが、夫の信弘のから語られる祖母の姿は、まるで違っていた。

「ばあちゃんはな、最すっかりがボケちまったんだよ。徘徊でもされたら所に示しがつかないし、いつ事を起こすかも分からなくて配でたまらないんだ。だから専業主婦のおが、体制でしっかり見張って世話をしてくれなきゃ困る」

結婚してこのに移りむ際、信弘はさも孝息子であるかのような神妙な顔つきで私にそう言った。 しかし、実際に同居を始めてみると、信弘の言い分には首を傾げざるを得ないことばかりだった。 確かに折、こちらの予を遥かに超える突拍子もないにることはあった。けれど、それは認症による記憶の混濁や判断力のなどではなく、信弘が言う「ボケ老」という言葉からは程いものだった。 歳という齢でありながら、おばあちゃんは驚くほど腰が丈夫で、背筋もピンと伸びている。

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