"四枚の余った名札" 第16話
保護者欄の署名
結の涙が、制のスカートに黒い染みを作っていった。
彼女は震える指先で目を拭い、机のの野県のパンフレットをいた。
そこには、伝統な芸のや、油絵のイーゼルが並ぶアトリエ、そして造のさな学寮の写真が印刷されていた。
「私……ずっと、絵を描く仕事がしたかったの」
結の声は、最初こそ途切れ途切れだったが、次第にを帯びていった。
「お母さんが買ってくれたタブレットで絵を描いてるが、番楽しかった。でも、お母さんはいつもテストの点数と、塾の偏差値の話ばかりだったから……絵が好きなんて言ったら、遊んでるってわれるのが怖くて言えなかった」
私は何も言わず、ただ結の言葉を受け止めた。
「図館でこの学のパンフレットを見つけたの。全国からやデザインを学びたいが集まって、寮で暮らしながら、朝から晩までものづくりができるっていてあって……私、どうしてもここにきたいってった」
「……京かられるのが、怖くはなかったの?」
私の問いに、結は度だけ線をげ、それから静かに首を振った。
「れたかったわけじゃないよ」
その言葉に、私の息が止まった。
「お母さんが嫌いだからくにくんじゃない。……私ね、お母さんの帰りをで待つのが、もう怖かったの」
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結のからこぼれたのは、胸を締め付けるような真実だった。
「部でで待ってると、お母さんがいつ帰ってくるか、今は夕飯を緒にべられるか、そんなことばかり考えちゃう。お母さんの顔を窺って、期待して、がっかりする毎に……私自が、縛られてたんだとう」
結は机ののパンフレットを両で押さえた。
「寮に入れば、みんな同じに起きて、同じにご飯をべて、自分の力で活しなきゃいけない。お母さんを待つ必がなくなる。……私、お母さんに頼りきりで、お母さんをみながらきていく自分をやめたいの」
歳の女がした、あまりにも痛切で、あまりにも自した決断だった。
結は逃げようとしていたのではない。
私という確実なから距を置き、自分のでつための所を、必で探していたのだ。
佐藤教諭が、静かに鏡をし、目元を拭った。
「さん。全寮制の公ですので、学費自体は都と変わりませんが、寮費や具代が別途かかります。また、度格すれば、途で都内のに転することは極めて困難です。親御さんのご覚悟も必になります」
教諭がしい願用を差しした。
番には、太い枠で囲まれた『保護者承諾欄』があった。
私はバッグから、用の黒い万を取りした。
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物流の過酷な現で、幾度となくサインをね、何億もの荷物をかしてきたいペンだ。
キャップをす音が、静かな教に響いた。
「結」
私が呼ぶと、結が涙の引いた目で私を見つめた。
「あなたの言う通りね。私はあなたに、待つことの苦しみばかりを与えてきた。母親として、失格だったとう」
万の先を、保護者氏名欄に落とした。
「でもね、あなたが自分で自分のを見つけてきたこと、すごく誇りにうわ」
インクがに染み込んでいく。
迷いはなかった。
『美』。
借物の名ではない。誰かに押し付けた名札でもない。
娘の未来に全責任を負う、たったの母親の名を、私は文字ずつ、力くき込んだ。
「おの配は切しなくていい。あなたが選んだ所なら、私が最まで責任を持って支えるわ」
所をき、認印を真っ直ぐに押した。
用を佐藤教諭のに滑らせると、教諭は々とをげた。
「確かに、お預かりいたしました」
面談が終わり、教の引き戸をけて廊にた。
の柔らかなが、いをに落としていた。
結は私の歩ろを歩いていた。ベンチの横を通り過ぎる、結が私のコートの袖を、指先でさく引いた。
ち止まって振り返ると、結は赤くなったをすすりながら、しだけ困ったように笑った。
「……お母さん」
「何?」
「今、来てくれて……ありがとう」
その言葉を聞いた瞬、私の界が初めて滲んだ。
私は結を抱きしめることはしなかった。ただ、たくなった娘のを自分ので包み込み、度だけ力く握り返した。
「約束したでしょう。私はもう、嘘はつかないわ」