"四枚の余った名札" 第10話
薬局の裏で
翌、私は昼休みのを使って、再び駅の調剤薬局へ向かった。
正面の自ドアから入る勇気はなく、薬局の裏にある従業員用の通用の脇にっていた。
たいのが、ビルのを吹き抜けていく。
半を過ぎた頃、を脱いでカーディガンを羽織った野寺織が、ゴミ袋を両に持って裏からてきた。私に気づくと、彼女は息を呑んでち止まった。
「……さん」
「何度も申し訳ありません。どうしても、聞きたいことがあって」
私のやつれた顔を見て、織は何かを察したようだった。彼女はゴミ集積に袋を置くと、裏の自販のまで歩き、温かい缶コーヒーを本買った。本を私に差しし、もう本を自分の両で包み込んだ。
「結ちゃんから、何か言われましたか」
「者面談の類を、隠されていました」
私は缶のを指先にじながら、震える声で言った。
「あの子に言われたんです。『お母さんを待つのが番しんどい』って。……野寺さん、あなたには言っていたんですか。どうして、私じゃなくてあなただったのか」
織は線を落とし、湯気のつ自販の排気を見つめた。
「度だけ、聞いたことがあります」
「……なんて?」
「休みの、回目の代役を頼まれたでした。私は『もうやめよう、ちゃんとお母さんに頼みなさい』って言ったんです。
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そうしたら、結ちゃん、ぽつんと言いました」
織はゆっくりと、あのをいすように言葉を紡いだ。
「『織おばさんは、来るって言ったら絶対に来てくれるから』って」
「それは……」
私の声がかすれた。
「それは、あなたがパートで、の都がつきやすいからでしょう? 私は正社員で、何もの部を抱えてる。あの子だって、私が遊んでるわけじゃないことくらい分かってるはず――」
「さん、そうじゃないんです」
織が、静かに私の言葉を遮った。
責めるような調ではなかった。むしろ、祈るような、願にい響きがあった。
「結ちゃんは、私のほうが優しい母親だなんて、これっぽっちもっていませんよ。私が奈々の母親であって、自分にとってはただの所のおばさんだってことくらい、誰よりも酷に分かっています」
織の目が、私を捉えた。
「だからこそ、私だったんです。の私になら、裏切られても傷つかずに済むから。そして、私が『く』と言ったは、本当にただ座りに来るだけだからです」
「ただ……座りに来るだけ?」
「ええ。私は結ちゃんのに責任がありません。だから約束を破る理由もないし、もし急用ができても、結ちゃんは私をんだりしません。『だから仕方ない』で済むからです。……でも、さんは違う」
織の言葉が、私の臓にく突き刺さる。
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「結ちゃんにとって、お母さんは世界でたったの母親なんです。だから、お母さんの『くね』は、私の万倍いんです。それなのに……さんが使う言葉は、いつも『けたらく』か『なるべくく向かう』だったんじゃないですか?」
私は息を止めた。
「結ちゃんが欲しかったのは、豪華な埋めわせでも、完璧な母親でもありません。ただ……『来る』と言ったら本当に来て、『来られない』と言ったら最初から来ないという、その確実さだけだったんです」
たいが吹き抜け、のの缶コーヒーからが奪われていく。
織の言葉のに、私が積みげてきたキャリアも、言い訳も、すべてが褪せて崩れっていった。
私は母として負けたのではなかった。
のとして、娘に対する「誠実さの単位」を根本から見誤っていたのだ。