みかん小説
本棚

"四枚の余った名札" 第5話

ファミレスのナプキン

翌の午、私は会社を退し、駅の調剤薬局の向かいにあるの軒にっていた。

自ドアがき、柄な女性がてきた。

紺のコートに、成りのトートバッグ。昨、写真ので見たのと同じ、控えめにろで束ねられた黒髪だった。野寺織。結の同級の母親であり、私の名を胸につけて教に座っていた女だ。

私はでづき、彼女の斜めにった。

「野寺さんですね」

声をかけると、彼女は驚いたようにを止め、私を見げた。

私のたい線と、スーツ姿の全を見て、何かに気づいたように息を呑んだ。

「結の母です。今、おいただけますか」

相がうろたえ、逃げしたり、逆したりする姿を像していた。物流の運管理として、責任逃れをする請けや荷主を相にしてきた経験が、私を構えさせていたのだ。

だが、野寺織は逃げなかった。

彼女は両をバッグの持ちに揃え、そのでく、直角にをげた。

「……申し訳ありませんでした、さん」

駅の喧騒の、彼女の消え入りそうな声だけが、私のに鋭く届いた。

駅からしれた国沿いのファミリーレストランに入った。

夕方の内は閑散としており、ドリンクバーの氷が落ちる音だけがやけに響いていた。

広告

掛けのボックス席の向かい側に座った織は、運ばれてきたアイスティーのグラスにを触れようともせず、線をテーブルのに落としていた。

私はスマートフォンを取りし、昨の写真を画面にして見せた。

「あなたが悪気があってやったわけではないと、娘から聞きました」

私はを抑え、努めて事務な声を作った。

「けれど、の母親の名札を提げて学事に席することが、どういうことか分かりますか。もし学で事故が起きたら、あなたが保護者としてサインするつもりだったんですか。これは派な元詐称です」

織はいナプキンを指先でさく折り畳みながら、震える声で言った。

「おっしゃる通りです。どんな理由があっても、私が引き受けるべきではありませんでした。本当に、申し訳ありません」

「じゃあ、どうして」

私はテーブル越しにを乗りした。

「どうして断らなかったんですか。のあなたが度でも『ダメだ』と言えば、あの子も諦めたはずです」

織は折られたナプキンを見つめたまま、喉を詰まらせるようにして言った。

「のでした」

彼女のさなが、テーブルので固く結ばれた。

「公授業の、結ちゃんは教の番ろの席で、ずっと廊を見ていました。を過ぎても、分を過ぎても、誰も来なくて。

広告

担任の先が度も来て、『お母さん、もうすぐ着く?』って声をかけていました。結ちゃんはそのたびに、『もうすぐ来ます』って笑って答えていたんです」

私の胸の奥で、たい何かがさく軋んだ。

あの、営業所で起きた追突事故。私が「緊急対応が入った」とメッセージを送った、あのだ。

「結ちゃん、泣きませんでした」

織は顔をげ、私の目を真っ直ぐに見つめた。

「泣きもしないで、じっとを向いて、ノートに何度も同じ文字をなぞっていました。その姿を見ていたら……隣にいたうちの奈々が、『お母さん、結ちゃんのお母さんの代わりに座ってあげて』って。私も、ただ席に座ってあげるだけなら、この子がこれ以恥ずかしいいをしなくて済むんじゃないかって……そのの浅はかな同で、席を移してしまったんです」

「……そのの、同」

「はい。でも、そこで終わらせるべきでした。終礼のの集写真の、結ちゃんがカバンから名札を取りして、私に差ししたんです。『これをつけて』って」

織の声がかすかに震えた。

「その名札を見た、断るべきでした。でも、すがりつくような結ちゃんの目を見たら……私には、すことができませんでした」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: