"三十年間「奥さん」と呼ばれた同僚" 第18話
私ので歩く所
初のがを青々と染めげる、曜の朝のことでした。
朝を終え、で聞を読んでいると、ダイニングテーブルのの隆史のスマートフォンが、い子音をてました。
夫は鏡を押しげ、届いたメールをきました。
スクロールする指が途で止まり、夫の眉が微かにきました。
「……真理子」
隆史はスマートフォンを置かず、画面を見つめたまま、静かに私を呼びました。
「何?」
「会社の、旧営業課の連からだ。来、俺の退職の区切りと、しいプロジェクトの打ちげを兼ねて、OB会みたいなみ会をくらしい」
私はお茶をすすり、夫の目をじっと見つめました。
「そう。懐かしいんじゃない?」
「ああ。……それでな、幹事の輩から、メールの最にこういてあるんだ」
隆史はスマートフォンを私の方へ向けました。
画面には、見覚えのある文面が並んでいました。
『部、今回は堅苦しい席ではありませんので、もしよろしければ、奥様もぜひご緒にいらしてください。あの歓送会では失礼なことも々ありましたので、みんな改めて奥様にご挨拶したいと申しております』
私はその文面を、指先でスクロールしながら静かに読みました。
あの歓送会の夜の記憶が、鮮やかに蘇りました。
スポットライトので拍を浴びていた林紀子さんの姿。
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私を「お姉様ですか?」と無邪気に尋ねてきた若い社員の顔。
私ののを無して作られていた、あの残酷な宴の空気が。
隆史はスマートフォンを引き戻すと、画面を消し、テーブルのに置きました。
そして、私の目をまっすぐに見つめて言いました。
「無理にく必はない。あんなことがあった所だ、おが嫌ないをするのは当然だし、俺で断りの返事をしても全く構わない。おが嫌なら、俺もかないよ」
夫の声には、迷いがありませんでした。
私を庇うための嘘でも、体裁を取り繕うための気遣いでもありませんでした。
私の気持ちを最優先にし、私の志にすべてを委ねようとしている――その誠実さが、夫の瞳の奥に宿っていました。
かつての隆史なら、「会社のためだから顔をしてくれ」と結果だけを押し付けるか、あるいは私のらないところで勝に欠席の返事をしていたはずです。
彼が自分の世界と私の世界のに築いていたい塀は、もうどこにもありませんでした。
私は窓のに広がる、どこまでも青い初の空を見つめました。
あの会社の宴会にくことは、私にとって決して愉な経験ではないでしょう。
顔をせば、社員たちは気まずそうにをげ、腫れ物に触るように私をもてなすかもしれません。
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「正妻の座」を取り戻したことを誇示しにくような、みっともない女に見えるかもしれないという怖さも、のどこかにありました。
けれど、私の胸の奥にあったのは、復讐でも、でもありませんでした。
、私は夫のの観客席にすら座らせてもらえませんでした。
彼がどんな所で戦い、どんなたちと笑い、どんな空気を吸っていたのかを、見ることすら許されませんでした。
けれど今、扉は私のにかれています。
入るかどうかも、ちるかどうかも、すべて私自ので決めることができるのです。
私はテーブルののお茶をみ干し、隆史に向き直りました。
「くわ」
隆史が、し驚いたように目を見張りました。
「……本当にいいのか? 気を使わなくていいんだぞ」
「気なんて使っていないわよ」
私はふっと、自然に笑っていました。
「誰かに認めさせるためでも、あのたちに文句を言いにくためでもないわ。あなたがいた所を、私が私の目で見てみたいだけよ」
私はちがり、台所へ器を片付けにきました。
「しい、買いにかなくちゃね。あのベージュのジャケットは、もう捨てちゃったから」
「……ああ。買いにこう」
ろから聞こえた夫の声は、どこか声で、でもとても穏やかでした。
流し台の蛇をひねると、たいが勢いよく流れしました。
私のの半は、誰かに用された全な檻のからではなく、私自ので選んだ所から、今まさに始まろうとしていました。