"書けないはずの祖母のハガキ" 第16話
分だけ待ってください
伯父が印鑑を振りろそうとした、その瞬だった。
「待ってください」
私はちがり、テーブル越しにを乗りして、類の角を両でく押さえた。
が擦れる鋭い音が、静まり返った会議に響いた。
「遥!」
母が青ざめて私のの腕を掴んだ。
「何やってるの、をしなさい! の話の邪魔をして……!」
伯父は印鑑を握ったまま、眉を激しく歪めて私を睨みつけた。
「遥。お、京から何をしに来た。施設の方々のを無駄にする気か」
「無駄にしません」
私は母のを振りほどき、伯父のたい目を真っ直ぐに見据えた。
「伯父さん、今、『本も納得している』っておっしゃいましたよね。昨晩、おばあちゃんは何て言ったんですか」
「何て言ったって……階のほうが全だからそのほうがいいって、母さん自が頷いたんだ」
「頷いただけですよね」
私は類を押さえたをさず、言葉を継いだ。
「伯父さんが『階のほうが夜に倒れなくてだろ? 俺も助かるんだ』って言って、おばあちゃんに頷かせたんじゃないですか? あのハガキと同じように!」
会議の空気が凍りついた。
松井主任と野護師が、息を呑んで私たちを見つめている。
「ハガキだと……?」
伯父の声が、りでく震えた。
「庭内のごたごたをこんな所に持ち込むな。俺がこの、どれだけのいで母さんを支えてきたか、おが番よくってるはずだ。
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文句があるなら、今ここでおが引き取ると言え! 言えないなら座ってろ!」
伯父の正論が、ナイフのように突き刺さる。
引き取ることはできない。
私で祖母の排泄と事を背負うことは、今の活では能だ。
その無力さに、喉の奥が苦く引き攣る。
でも――だからといって、沈黙していい理由にはならない。
私は伯父に言い返すのをやめ、テーブルの端に置かれた祖母の子へと歩み寄った。
パイプ子を引き、祖母の膝のにくしゃがみ込んだ。
目線を、祖母と同じさにわせる。
「おばあちゃん」
祖母の線が、怯えたように私の顔に注がれた。
麻痺した肩が、緊張でさく引き攣っている。
「おばあちゃん、今の部から、階の部に引っ越したい?」
「おい、やめろ!」
伯父がちがり、机を叩いた。
「母さんは認症も入ってるんだ! 今の状況でそんな質問をしたって、混乱するだけだ! 母さん、昨話した通り、階のほうがだからな。俺に任せておけばいいんだ」
伯父が祖母の言葉を覆い隠すように、声でまくしてる。
私はちがることなく、祖母のを両でしっかりと包み込んだまま、首だけを伯父に向けた。
「伯父さん」
私の声は、自分でも驚くほど静かで、通る音になっていた。
「分だけ、待ってください」
伯父が息を詰まらせた。
「何だと……?」
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「分だけでいいんです。おばあちゃんが、自分ののから言葉を探して、からすまでのを……どうか奪わないでください」
私は会議にいる全員を見回した。
母、松井主任、そして野護師。
「おばあちゃんは、話すのにすごくがかかります。健常者の私たちがイライラするくらい、がかかります。だからってみんなで先回りして、『だいたいってる言葉』で埋めないでください。おばあちゃんが自分のの居所を決める権利を、奪わないでください」
野護師が、さく息を吸い、松井主任の顔を見た。
松井主任はしの躊躇した、伯父に向かって静かにをげた。
「……正昭様。しだけ、文子様のご様子を見守らせていただけないでしょうか」
伯父は唇を真文字に結び、りと屈辱に顔を赤く染めながら、ゆっくりと子に腰を落とした。
印鑑を握りしめた拳が、テーブルのでく震えていた。