"書けないはずの祖母のハガキ" 第8話
丸められたき
昼過ぎ、廊から聞き慣れた音がづいてきた。
引き戸がき、きなプラスチックの洗濯カゴを抱えた伯父が入ってきた。
私がいまだに部にいるのを見て、伯父はあからさまにそうな顔をした。
「……まだいたのか。京へ帰るんじゃなかったのか」
「今はいられるだけいます」
私がちがると、伯父は何も言わずに持参した洗濯物をタンスの引きしに際よく収め始めた。
肌着、靴、タオル。
その無駄のないきには、のルーティンが染み付いている。
「伯父さん、しで話せますか」
伯父はタンスを閉め、祖母には線をわせないまま、顎で廊をしゃくった。
階の駐脇にある自販売ので、伯父は百円の缶コーヒーを買い、プルトップを引き抜いた。
たいが、のを通り抜けていく。
「何だ。また文句か」
「文句じゃありません。さっき、おばあちゃんから直接聞きました。の連休のハガキのことです」
伯父の喉が、コーヒーをみ込む音をてた。
「おばあちゃんは『無理しないでね』って言っただけでした。『来るな』なんて言ってない。どうしてあんなき方をしたんですか」
伯父は缶を握りつぶしそうなさで持ったまま、く笑った。
「同じことだろ。無理するなっていうのは、来るなってことだ」
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「違います! 全然違います!」
「何が違うんだよ!」
伯父が突然、缶をゴミ箱に投げつけた。ガコン、と鋭い属音が響く。
「あの連休、うちの嫁の親父の法事となってたんだよ! 俺は朝からそっちの伝いにかなきゃならなかった。母さんのところに遥が来たら、誰が駅まで迎えにく? 誰が昼飯の配をする? 母さんが『遥とで蕎麦がべたい』なんて言いしたら、子を押して連れてくのは誰なんだよ!」
伯父の肩が激しくしていた。
「おたちが来るっていうのはな、俺にとってはイベントじゃないんだ。業務が増えるんだよ。母さんがべばぶほど、そのに残される俺の負担が何倍にもなるんだ。それが分かってて、『来てください』なんてけるわけないだろうが!」
私は言葉を失った。
伯父のりは、単なる勝さからたものではない。
で介護を抱え込み、逃げを失ったの、限界の叫びだった。
ふと、伯父のめている軽ワゴンの助席に目が留まった。
窓ガラス越しに、ダッシュボードのに無造作に置かれた屑が見えた。
丸められた裏の隙から、青いボールペンの文字が覗いている。
私は無識ににづき、いていた助席の窓の隙に目を凝らした。
伯父が慌てて「おい、何見てんだ」と割って入ろうとしたが、それよりく、私の線はその片の文字を捉えていた。
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それは、施設の便箋の切れ端だった。
『遥へ
最はどうですか。
おばあちゃんは、おと緒に蕎麦がべた』
そこまでかれた文字のに、何本もの黒い線が引かれていた。
インクが滲むほどい圧で、乱暴に消されている。
そのに、しくき直されたがあった。
『施設のご飯はがいけれど、残さずべています』
それは、私が受け取ったハガキの文面そのものだった。
伯父は最初から嘘をこうとしていたのではなかったのだ。
祖母の言葉を度はペンでなぞりながら、現実の疲労と都のにちすくみ、自らのでそれを塗りつぶしていたのだ。
「……見せるな」
伯父が助席のドアをけ、その屑を乱暴にポケットにねじ込んだ。
その横顔は、りというよりも、ひどく惨めで、疲れ果てて見えた。
「頼むから、もう帰ってくれ」
伯父は掠れた声で言った。
「おがいると、調子が狂うんだよ」