"書けないはずの祖母のハガキ" 第7話
分の沈黙
翌朝の午。
私は京きの特急には乗らず、再び齢者宅の〇号のにっていた。
ノックをして引き戸をけると、祖母はすでに子に移乗し、窓のの浅温泉方面の々をぼんやりと眺めていた。
「おばあちゃん」
声をかけると、昨のようにゆっくりと首が回った。
私の姿を認識した瞬、祖母の顔がくしゃりと崩れ、が伸びてきた。
「……あ、お……い……」
昨夜の母との話でえ切っていた胸の底が、祖母の温かいのひらに触れた瞬、じんわりと解けていくのをじた。
私はさな丸子を引き寄せ、祖母の膝のに座った。
カバンから、昨とは別の、半の付が入ったハガキを取りす。
『今のゴールデンウィークは、親戚が勢来て疲れるから、遥は京でゆっくり休みを過ごしなさい』
そうかれたハガキだ。
「おばあちゃん。これ、の連休ののハガキなんだけど……」
祖母は老鏡をかけ、じっとハガキを見つめた。
そして、困ったように眉をの字に曲げた。
「私、あの連休、本当はおばあちゃんに会いに来ようとしてたの。でも、このハガキが届いたから……疲れるならやめておこうって、京にいたんだよ」
祖母の線が、ハガキから私の顔へと移る。
その瞳の奥に、激しい混乱と、何とも言えないしみが浮かんでいた。
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「おばあちゃん、あのとき、本当に『来るな』って言ったの?」
祖母の喉仏がいた。
唇がさくき、乾いた音が漏れる。
「……あ……」
言いたい言葉があるのに、が見つからない。
そんなもどかしさが、祖母のこわばった表から痛いほど伝わってきた。
私はを挟まなかった。
「ゆっくりでいいよ」とも言わなかった。
ただ、祖母のを両でしっかりと握り、その線を逃さずに見つめ続けた。
部の壁に掛けられた計の秒針が、チ、チ、チ、と規則正しい音を刻む。
秒が過ぎた。
分が過ぎた。
普段の活ので、分の沈黙がいかにいか。
版社の打ちわせなら、秒の沈黙すら耐えられずに誰かが言葉を挟む。
伯父もきっと、この沈黙に耐えられなかったのだ。
祖母が言葉を探すそのを待てず、先回りして「こういうことだろ」と埋めてしまったのだ。
祖母の額に、微かに汗が浮いていた。
麻痺した肩が、の昂ぶりとともにさくピクピクと痙攣している。
それでも私は待った。
呼吸をわせるようにして、祖母のから言葉が零れ落ちるのを待った。
分くが経過したときだった。
祖母の唇がきくき、はっきりとした母音が部に落ちた。
「……ま……ち……」
「まち?」
「……まって、た」
祖母の目に、みるみるうちに涙が溜まっていった。
「まって……たよ。……れん、きゅう……」
語語を、まるでいを底から拾いげるようにして、祖母は絞りした。
「正昭が……みんな……くるからって……。遥は……とおく、だから……って……」
祖母は息を吸い、胸を押さえた。
「だから、わたし……無理……しないでね、って……いった……だけ……」
臓が締め付けられた。
無理しないでね、と祖母は言ったのだ。
くから来る孫の体を気遣って、優しさからたその言。
それを伯父は、「来るな」「疲れるから来るな」という拒絶の文章に仕て直して、私に送っていたのだ。
祖母の優しさを利用して、祖母の会いたいという願いを切り捨てていた。
「ごめんね、おばあちゃん」
私は祖母の膝に額を押し当てた。
「ごめんなさい。私、ハガキの文字を信じて……ううん、信じたことにして、楽をしてた。本当にごめんなさい」
祖母のが、私ののにそっと乗せられた。
骨張った指先が、ぎこちなく、何度も私の髪を撫でてくれた。