"書けないはずの祖母のハガキ" 第5話
黄ばんだ領収の
伯父はがり框からを翻すと、居の奥へと消えた。
数分、両に抱えるようにして戻ってきたのは、茶いプラスチックの装ケースだった。
「靴を脱げ。がれ」
無を言わせぬさだった。
私はにち尽くしたまま躊躇したが、伯父はケースを玄関の板に乱暴に置いた。
バチン、と具がされ、蓋がけられる。
に入っていたのは、膨な類の束だった。
クリアファイルに几帳面に分類された領収、病院の診察券、介護保険証のコピー、薬の処方箋。
そのの端々はどれも黄く変し、角が擦り切れていた。
「見ろよ」
伯父は番の分いファイルを冊掴み、私の元に放りすように置いた。
「これ全部、こので母さんのために俺が払って、続きした記録だ。松本内の総病院の呼吸器科、脳神経科、リハビリテーション科。に回、会社を退してで連れていく。待ちは毎回だ。子をトランクに積みろしするだけで腰が鳴をげる」
伯父は指を折りながら、を押し殺した声で続けた。
「の、夜のに施設から話があった。母さんがベッドから落ちて部を打ったってな。零度のをばして駆けつけて、救急に同乗して、検査が終わって病に入ったのは朝の半だ。
広告
そのまま顔だけ洗って社したよ。お、そのに何してた?」
胸を針で刺されたような痛みがった。
私は何も言い返せない。
「おが神保町で本を作って、おしゃれな居酒で酒んで、京の便利な暮らしをしてる、俺はこののと格闘してきたんだ。ケアマネジャーとのの面談、オムツの銘柄の指定、額療養費の還付申請、施設の座引き落としの続き……全部、俺だ」
伯父は別のファイルをめくり、々しいきのメモを突きつけた。
「母さんはな、最初は『遥にをきたい』って泣いてたよ。だけどな、脳梗塞のの母さんは、つの文章を考えるのに半かかるんだ。『京』って漢字をいすだけで分唸ってる。その、ずっと付き添ってペンを持たせて、震えるを支えるのがどれだけ変か、おに像できるか?」
「だからって……」
私の声は、先ほどまでの勢いを失って震えていた。
「だからって、おばあちゃんの言葉を正反対にしていいわけじゃないです。『会いたい』を『来なくていい』に変えるのは、おばあちゃんのためじゃなくて……」
「俺のためだよ」
伯父はあっさりと私の言葉を遮った。
その徹なまでのき直りに、呼吸が止まりそうになる。
「俺の体と活を守るためだ。おが野に来たらどうなる? 母さんはいがって、もっとここにいてくれとごねる。
おが帰ったは鬱状態になって、欲が落ちて、点滴を打つ羽目になる。その尻拭いをするのは全部俺だ。京からたまに来て、優しい孫の顔だけして帰っていく奴のために、どうして俺がこれ以の負担を背負わなきゃならないんだ?」
伯父の充血した目が、私を真正面から射抜いていた。
「文句があるなら、今すぐ母さんを京へ連れてけ。おのアパートで引き取って、オムツを替えて、毎病院へ連れてけ。それができないなら、くの全な所から綺麗事を吐くな」
元に散らばる黄ばんだ領収のが、たい鉛のように私の界を塞いだ。
私はハガキを握りしめたまま、言も返せないまま、ただち尽くすしかなかった。