"書けないはずの祖母のハガキ" 第4話
だいたいっている
宅の角にある、築ほどの造階建ての。
表札には「佐倉正昭」とある。
インターホンを押すと、奥でい音がして、玄関のすりガラス越しにかりが灯った。
引き戸がく。
現れたのは、グレーのスウェット姿の伯父だった。
歳。内の建材メーカーに勤めている。
額には老鏡を押しげ、髪にはいものが目っていた。
目のには濃い隈が落ち、全体に酷く疲れた空気をまとっている。
「……遥? なんだ、お。こんなに……京から来たのか?」
伯父は目を丸くして私を見た。
驚いてはいるが、ろめたい特の揺は見当たらない。
私は玄関のにったまま、靴を脱ごうともせず、コートのポケットから枚のハガキを取りした。
今持っていた、ここ数ヶのハガキの束だ。
それを、伯父の目のに突きつけた。
「伯父さん。これ、伯父さんがいたんですよね」
伯父の線が、私の元のハガキに落ちた。
秒、秒。
伯父は眉ひとつかさず、押しげていた老鏡を指先でした。
「……そうだ。俺がいた」
あまりにあっさりとした肯定に、私のほうが言葉を詰まらせた。
「どうしてですか。おばあちゃん、からは全くかないって、さっき施設で聞きました。ペンなんて持てる状態じゃないって」
「ああ。母さんは字がけないからな。
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だから俺が代わりにいたんだ。代だ」
平然と言い放つその調に、の奥がカッとくなった。
「代ですって? 代っていうのは、本が言ったことをそのままくことでしょう? ここには何ていてありますか。『仕事が忙しいなら来なくていい』『無理をしないで自分の活を優先しろ』……おばあちゃん、そんなこと言も言ってない!」
私の声が玄関に響いた。
奥の居からテレビの音が漏れ聞こえていたが、それすらのくほど、りで界が狭まる。
「今、おばあちゃんに会ってきました。おばあちゃん、私を見てなんて言ったといますか?『ようやく来たね』って泣いたんですよ! 会いたがってたじゃないですか! どうしてこんな、来るなと言わんばかりの嘘を毎週毎週送りつけてきたんですか!」
伯父は私の剣幕に気圧される様子もなく、ただめた目で私を見ろしていた。
その静けさが、余計に私の神経を逆なでする。
「お、落ち着けよ」
「落ち着いていられますか! おばあちゃんの気持ちを偽造して、私をざけて……何が目なんですか!」
伯父はいため息をついた。
その息には、の疲労と、話の通じない子供を見るような諦めが混ざっていた。
「嘘はいてない」
「は……?」
「母さんはな、おが京でで頑張ってるのをずっと配してるんだ。神保町の版社だろ? 帰りが遅いのも、休みが規則なのもってる。
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そんなおに、野まで毎来いなんて言えるわけがないだろうが」
伯父はにりることもせず、がり框に片を突いた。
「京から松本まで、往復でいくらかかる? 万何千円だろ。幹線と特急を乗り継いで、休みのにわざわざ来て、顔を見て、でとんぼ返りか? それで翌週からまた仕事か? お、それ続けられるのかよ」
「それは……私の問題です! 私が決めることです!」
「おだけの問題じゃないんだよ」
伯父の声が、く、く響いた。
「母さんはな、おが来るとなると、から興奮して夜も寝なくなるんだ。血圧ががって、職員のを煩わせる。で、おが帰ったは、抜け殻みたいになって泣いてるんだよ。そのの嫌を取って、血圧の薬の調を頼んで、施設からの話を受けるのは誰だとってるんだ?」
私は息を呑んだ。
「おはたまに来て、『おばあちゃん、元気だった?』って良い顔して帰れば満だろうさ。でもな、こっちはその活が毎続いてるんだよ。母さんの『会いたい』をそのままおにぶつけて、おが無理して通って、仕事で倒れでもしたら母さんはもっと自分を責める。そんなことも分からないのか」
伯父の言い分は、見すると筋が通っているように聞こえた。
だが、決定な欺瞞がある。
「だからって……本の言葉を勝にき換えていい理由にはなりません。
おばあちゃんは『会いたい』って言ったんです。それを『来なくていい』に変えるのは、ただの改ざんです!」
私はハガキを握りしめ、震える指先でその文面を指差した。
「この『若いは仕事を事にしなさい』も、『施設のご飯は美しい』も……全部、伯父さんが勝に作った言葉じゃないですか!」
伯父は私の元にあるハガキを、忌々しそうに見つめた。
それから、太い指でハガキの端をトン、と叩いた。
「だいたいっている」
私はを疑った。
「……え?」
「母さんが言いたいことの芯は、だいたいっている。母さんはおの邪魔をしたくないんだ。おに幸せに暮らしてほしいんだ。だったら、表現が違っていても同じことだろ」
表ひとつ変えずに、伯父はそう言った。
悪びれるも、罪悪のかけらもない。
本気で、それが正しいと信じ切っている目だった。
「だいたいっているんだから、何が問題なんだ?」
え切った玄関で、私は完全に言葉を失った。
このは、自分が嘘をついているとすらっていないのだ。
病気で言葉を失い、体の自由を奪われた祖母の志を、自分の都のいい形に「翻訳」し、最適化し、それを「本のためだ」と信じ込んでいる。
そしてその最適化されたハガキを受け取って、堵していたのは――ならぬ私自だった。
胸の奥底から、吐き気を伴うような戦慄がいがってきた。