"書けないはずの祖母のハガキ" 第2話
はかない
松本駅からタクシーで分ほどった郊に、その施設はあった。
周囲を穏やかな田畑に囲まれた階建ての建物で、玄関には入れされた植え込みが並んでいる。
自ドアをくぐると、独特の消毒液の匂いと、どこか甘いほうじ茶のりが漂っていた。
受付のカウンターには誰もいなかったが、奥の事務から代半ばほどの女性職員がてきた。
紺のスクラブの胸元に「野」と名札がついている。
「あ、いらっしゃいませ。面会の方ですか?」
「はい。階の佐倉文子の孫の、遥と申します。連絡もせずに急に来てしまってすみません」
面会簿に名と続柄、京の所を記入してペンを置く。
野さんは用に目を落とし、私の名をじっと見つめた。
その線が、自然なほどい、のに留まっていた。
「……京から、いらしたんですか?」
「はい。たまたま野で仕事があって、しができたので」
私が提げ袋の栗羊羹をし持ちげて見せると、野さんは眉をわずかにひそめ、探るような目で私の顔を見げた。
「遥さん……お孫さんの、遥さんですよね?」
「はい」
「あの……文子さんから、何か聞いていらっしゃいますか?」
「いえ、本当にサプライズなんです。驚かせようとって」
私はし照れくさくなって、笑いながら言葉をした。
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「毎週、ハガキをくれていたので。仕事が忙しいなら無理して来なくていいって、いつもいてあって……でも、さすがに顔を見せないと申し訳ないなとって」
受付の空気が、ふっとえた。
野さんの表から、営業用の笑みが完全に消えていた。
背の事務所でいていたプリンターの作音だけが、やけにきく響く。
「……ハガキ、ですか?」
「ええ。毎週曜に、アパートに届くんです」
「文子さんがかれた、ハガキですか?」
「はい。祖母の字です。昔からし丸っこくて、に傾く癖があって……最はし歪んでましたけど、本がいたってすぐ分かる字です」
野さんは元の面会簿から顔をげ、周りにの職員がいないことを確かめるように、線をに泳がせた。
それから、を乗りすようにして、声を段くした。
「遥さん。落ち着いて聞いてくださいね」
「……はい?」
「文子さんは、の脳梗塞の遺症で、半にい麻痺が残っています」
私は息を止めた。
言われている言葉のが、すぐにはに入ってこない。
「麻痺……でも、リハビリで良くなったって、伯父から……」
「の拘縮がひどいんです。指が内側に固まってしまっていて、ご自でくこともできません。事も、で自助具のスプーンを使って、なんとか召しがっている状態です」
野さんは痛ましいものを見るような目で、私の元を見つめた。
「ペンを握ることなんて、絶対にできません。から、お名の文字すら、ご本のではけていないんです」
元から血の気が引いていくのが分かった。
カバンのには、に届いたばかりのハガキが入っている。
そこには確かに、青いボールペンのインクで、歪みながらも温かみのある文字が並んでいた。
『若いは、まず自分の活を事にしなさい』
じゃあ、あの文字は誰がいたのか。
毎週曜に届いていたあの言葉は、体誰が、何のために私へ送り続けていたのか。
「……部に、ってもいいですか」
自分の声が、の声のようにかすれて響いた。
野さんは静かに頷き、階へ続く階段を指差した。