"七年前に死んだ母の退院" 第7話
えた缶コーヒーの嘘
階の病のにった、私のは鉛のようにかった。
スライドドアのさなガラス窓からを覗くと、佐々文はベッドのに横たわっていた。昨よりもさらにさく縮こまり、い掛け布団ので、呼吸にわせて細い肩がかすかにしている。点滴のチューブが繋がれたには、引き抜き防止のためのきなミトン型の布袋が被せられていた。
私が部に入ると、ベッド脇の丸子に座っていた皆川が、救われたような表でちがった。
「様……来てくださって、ありがとうございます」
「佐々さん、容態は?」
「はがりましたが、今朝のゼリーもしか召しがらなくて。護師が話しかけても、ずっと壁を向いたままなんです」
皆川は机のに、域密着型の規模能施設と、民の料老ホームの保護枠のパンフレットを広げた。
「区の福祉課と掛けって、元引受なしでも政の保護枠で受け入れてくれる施設を箇所、なんとか確保しました。ですが、契約にはご本の確認が必です。あるいは、ご本が完全に判断能力を喪失しているという医師の診断がなければ、無理やり移させることは権できません」
「確認、ですか」
「はい。『枝さんが迎えに来る』というい込みを解いていただかない限り、同に判を押していただけないんです。
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……様、変苦しいお願いなのですが」
皆川は声を落とし、気まずそうに目を伏せた。
「佐々さんに、『お母様は今、体調を崩してくの病院に入院しているから、先にあちらの施設に入って待っていよう』と……そう、お話ししていただけないでしょうか」
私は皆川の顔を凝した。
「嘘をつけ、と?」
「便宜のものです。佐々さんの衰を防ぎ、全な所へ移送するための、やむを得ない段です。このまま拒否を続けられれば、退院のには制に般の政シェルターへ送られることになります。そこは劣悪で、認症のんだ方には耐えられません」
善の嘘。現を守るための、理で優しい嘘。
おそらく母も、そうやって嘘をつき続けていたのだろう。曜のけも、私への気遣いも、すべて波をてないための「優しい嘘」だった。
だが、その嘘の果てに、この老はもしないを待ち続けることになったのだ。
「……席をしていただけますか」
私は静かに言った。
「佐々さんと、だけで話がしたいです」
皆川は躊躇するように眉を寄せたが、私の頑なな線に押されたのか、静かに礼して病をてった。
パタンとドアが閉まり、部には空調のい唸り声だけが残った。
私は丸子を引き寄せ、文の枕元に腰掛けた。
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「佐々さん」
声をかけると、毛布の塊がピクリと震えた。文がゆっくりと寝返りを打ち、私の方を見た。落ち窪んだ目元には、赤黒い隈が広がっていた。
「……誰?」
昨、私の顔を見て「真紀ちゃん」と呼んだのようなは、その瞳から消えかけていた。
「真紀です。枝の、娘です」
「……まきちゃん?」
文はかすれた声で呟き、ミトンに包まれたを持ちげようとして、点滴の管がピンと張った。
「枝さんは……? で、に乗って待ってるの? 私、歩けないから……おんぶしてもらわないと……」
「佐々さん」
「あの、言ったのよ。昔ね、神社ののベンチで、たい缶コーヒー半分こしてんだにね。『文さん、もし腰がたなくなったら、私が軽トラ借りてでも迎えに来るから』って。あの、嘘つかないだから……」
老の乾いた唇から零れ落ちる言葉は、あまりにも具体で、あまりにも々しかった。
母は、本当にそう言ったのだろう。
自分の老いと孤独をごまかすために、目のにいる同じ境遇の老に、その限りの救いの言葉を与えてしまったのだ。母に悪気はなかったはずだ。その瞬だけは、本気でそうっていたのかもしれない。
だが、残された側にとって、それは呪いと同じだった。
私は膝ので両をく握りしめた。
爪がのひらにい込み、鈍い痛みがった。
ここで嘘をねることは簡単だった。「お母さんはから来るから」と微笑み、施設への入所類に名をかせれば、私の役目は終わる。度とこの病院に来る必もなくなる。
でも、それは母の無責任さを、私がもう度繰り返すことと同じだった。