"七年前に死んだ母の退院" 第4話
あとの退院期限
皆川は両を机のにね、々とをげた。
「ご迷惑をおかけしていることは々承しております。本来であれば、病院側の際として完全にこちらで処理すべき案件です。ですが……いま、非常に差し迫った問題がございまして」
「差し迫った問題?」
「佐々さんの退院期限です」
皆川は顔をげ、苦渋に満ちた表で私を見つめた。
「当院は急性期病院です。病の回転率が厳しく定められており、症状が寛解した患者様を期留め置くことはできません。主治医の判断により、佐々さんの退院期限は今週末――あとと決まりました」
「ですから、それは役所の福祉課に相談して……」
「すでに連絡は入れております。しかし、成見の申してや、寄りのない方の政保護による施設入所の認には、通常、最でもヶからヶのがかかります。彼女が以んでいたアパートは、賃の滞納と今回の入院をに、すでに側から解約の続きがめられており、帰る所がありません」
「じゃあ、民のショートステイか何かにに入ればいいじゃないですか」
「入れないんです」
皆川はきっぱりと言った。
「佐々さんご本が、頑として施設の利用契約にサインを拒否されているんです」
「なぜですか」
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「『枝さんが迎えに来るから』と」
胸の奥を、細い針でちくりと刺されたような痛みがった。
「佐々さんは、検査のたびに護師に仰るそうです。『私が本当に歩けなくなったら、枝さんが迎えに来てくれると約束した。だから余計な施設にはかない』と。ご親族にも当たりましたが、唯連絡がついた埼玉の甥御さんからは『以音信通だし、切関わりたくない』と受話器を切られました。いま、佐々さんの元引受欄に名があるのは、様、あなただけなんです」
。
たったのに、あの骨と皮ばかりの老をどこかへ送りさなければならない。
「私にどうしろと言うんですか。私は赤のです。引き取ることも、保証になることもできません」
「もちろん、引き取っていただくなどとは考えておりません。ただ……あとのに、佐々さんに『施設へくこと』を納得していただく必があります。そのためには、ご本の認を解きほぐさなければなりません。どうか、お母様と佐々さんのに何があったのか、しだけでも当たりを探していただけないでしょうか。お母様のを受け入れていただけなければ、佐々さんはきを失い、退院にそのままへ放りされることになってしまいます」
私は答えに窮し、唇を噛んだ。
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相談をて、私はもう度だけ階の病へ向かった。ナースステーションにコートを忘れてきたことに気づいたからだ。
病のドアはしいていた。
を覗くと、佐々文はベッドのに端座し、元で何かを折っていた。
コンビニのレシートだった。
細いを、まず縦に半分に折る。それから端と端をきっちりとわせ、親指の爪先でアイロンをかけるようにく折り目をつける。さらに、もう度半分に折る。さく正方形になったレシートを、パジャマのポケットに丁寧に滑り込ませた。
私のが、また止まった。
レシートを回折る。
角をぴったりとわせ、爪で折り目をつける。
母の、まったく同じ癖だった。
スーパーで買い物をしたあと、母はいつも財布にレシートをしまうに、そうやって回折っていた。「こうしておくと、計簿をつけるに引っ張りしやすいのよ」と、母は笑っていた。
「……佐々さん」
わず声がていた。
老は顔をげた。先ほどのような混濁した表ではなく、どこかくを見るような、静かな目をしていた。
「真紀ちゃん。戻ってきたの」
「どうして……母の真似をするんですか。レシートの折り方まで」
私の声には、隠しきれない苛ちが混ざっていた。んだ母の領域に、で踏み込まれているような、奇妙な嫉妬とがあった。
佐々文は、ふっとい笑みを漏らした。
「真似じゃないわよ。枝さんに教えてもらったの。……あの、買い物の計算だけは細かかったから」
「母と、仲が良かったんですか」
「仲が良いだなんて、そんな層なものじゃないわよ」
文は窓のの曇り空を見げた。
「ただ……修さんが会社を辞めた、あの、私のでだけ泣いたのよ」
臓がねがった。
修。私のつの兄だ。
兄は歳の、卒で入った械メーカーを突然辞め、半ほど自分のアパートに引きこもっていた期があった。あの、母は私には「修は次のステップを考えてるだけだから、真紀は配しなくていいの」と、いつものい調で笑っていたはずだった。
「『真紀に言ったら、しっかりしなさいってられちゃうから』って。あの、あなたのではいつもちゃんとした母親でいたがってたからねえ。私のボロアパートの炬燵で、お茶をすすりながら、で泣いてたわよ」
私のらない母。
私のでは決して見せなかった、くて、けない母の姿。
それを、この目のの見らぬ老が、すべて握っていた。
「真紀ちゃん。枝さんは、いつ来るの?」
無邪気な、子供のような声で文が尋ねてきた。
「あとで、ここをてかなきゃいけないんだって。枝さんに話してちょうだい。
迎えに来てって」
私は何も答えることができなかった。
喉がからからに渇き、指先がたく凍りついていた。
「……また、来ます」
それだけを絞りし、私は逃げるように病棟をびした。
病院のにると、すっかり陽が落ち、たいのがの葉を揺らしていた。駅へ向かう波ので、私はスマートフォンの画面を見つめた。
あと、。
私のらない母のを、も抱え続けてきた老が、あそこのベッドに取り残されている。
スマートフォンのアドレス帳をき、『兄・修』の文字ので私の指が止まった。