"あなただけ辞めていいわけないでしょ" 第15話
平の昼のうどん
週の猶予は、あっというに消えった。
。れの曜。
私は勤めた会社の通用をた。
のには、総務から渡されたさな束と、私物を用箱に詰めた茶い段ボールがつだけあった。
送別会は断った。部たちには簡単なメールを通送り、最の挨拶回りを済ませた。かつて私を追い詰めた基幹システムのエラー音も、号がび交う役員の声も、通用の自ドアが閉まった瞬に、すべてい過ののように消え失せた。
背を度だけ振り返った。の巨な社が、午のを浴びて無質にそびえっていた。
「ありがとうございました」
私はさく呟き、をげた。みはなかった。ただ、私のの最初の半分が、ここで静かに終わったのだと実していた。
駅のロータリーへ向かうと、歩ののに、見覚えのある柄ながっていた。
由美だった。
し褪せたベージュのトレンチコートを着て、両をポケットに突っ込んでっていた。
彼女も今、勤めた総病院を退職したはずだった。には、私と同じようなさな袋が提げられていた。
「由美」
声をかけると、由美が振り向き、私の段ボール箱を見てクスクスと笑った。
「何よそれ。
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荷物、それだけ?」
「いて、これだけだ。おこそ、袋つか」
「ロッカーの奥に置いてあったマグカップと、サンダルだけ持ち帰ってきたわ。あとは全部捨ててきちゃった」
は顔を見わせ、どちらからともなく笑い声を漏らした。
計の針は、午分を指していた。
普段なら、私がパソコンの画面を睨みつけ、由美が患者の診察券を捌いているだ。太陽がく昇り、をき交う々はまばらで、どこかのパンから漂ってくる甘いバターの匂いがに乗って流れてくる。
「……お腹、空かない?」
由美が言った。
「そうだな。昼飯、ってない」
私たちは駅の架にある、季の入ったちいうどんに入った。
券売で券を買う。かけうどん、杯百円。で百円。
湯気のちるカウンターで、私たちは並んで丼を持った。澄んだ汁に、刻みネギと揚げ玉が浮いているだけの、ごく普通のうどんだった。
「美しいね」
由美がレンゲで汁をすすりながら、さく呟いた。
「ああ。沁みるな」
汁の温かさが、空っぽだった胃袋を満たしていく。
「雅さん」
「ん?」
「私ね、来週から支援センターの研修が始まるの。週、朝から午まで」
「そうか。無理はするなよ」
「うん。……あなたのは?」
「からだ。作業着のサイズ、Lで頼んできた。最初はフォークリフトの免許を取らされるらしい」
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「へえ。似いそうじゃない」
由美が丼を置き、悪戯っぽく目を細めた。
私は笑いながら、唐辛子をしだけうどんに振った。
これからの私たちの世帯収は、私の取り万と、由美の万をわせて、万円。
以の私の料本分にも満たない。
宅ローンは、私の退職から百万円を内入れして期を縮し、々の返済額を万千円まで圧縮した。由美の退職百万は、をつけずに定期預に放り込んだ。
翔太の学費は、奨学と息子のバイト代で部分を賄う。
贅沢なはもうできない。旅も当分はお預けだ。来以の固定資産税の通が届くたびに、私たちはを抱えることになるだろう。
それでも。
平の昼がりに、妻と並んでべる百円のうどんは、かつて座の料亭で取引先とべた数万円の会席料理の何倍も、体の芯まで美しかった。
をると、の涼しいが頬を撫でた。
「帰ろうか」
「うん、帰ろ」
私たちはどちらともなく歩きした。並んで歩くのは、何ぶりだろうか。
をつなぐわけでもない。ただ、互いの靴の音が、アスファルトので等しいリズムを刻んでいた。