"あなただけ辞めていいわけないでしょ" 第14話
落ちのミニバン
曜の朝半。
私はリビングの固定話のにち、受話器を握りしめていた。のひらに、じっとりとたい汗が滲んでいる。
呼吸を度し、群馬の属加メーカーの野専務の携帯番号をプッシュした。
コール音が回鳴り、野専務のく嗄れた声がた。
「おう、佐野さん。待ってたよ。承諾、送ってくれたかい?」
喉の奥が引きつった。今ここで「きます」と答えれば、収百万がに入る。だが、その代償として何を差しすことになるか、私はもうっていた。
「……野専務。変勝なご相談で、申し訳ありません」
私は背筋を伸ばし、受話器に向かってくをげた。
「お話をいただいたの件、辞退させていただきたくじます」
話の向こうで、息を呑む気配がした。
「……おいおい、佐野さん。冗談だろ? 収が満なら、あと万くらいなら役員会に掛けってもいいんだぞ。歳でこの条件は、じゃ絶対にあり得ないぞ」
「条件の問題ではありません。私のと体が、あの過酷な現を背負いきれないと判断いたしました。勝な申しでご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありません」
専務は数秒沈黙し、やがてく、いため息をついた。
「そうか。……惜しいな。だが、本がそう言うなら仕方がない。体だけは気をつけてな」
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通話が切れた。ツーツーという無質な子音を聞きながら、私はゆっくりと受話器を置いた。
の力が抜け、そのにへたり込みそうになった。
収百万を、自分ので捨てたのだ。戻りは、もう絶対にできない。
だが、議と悔はなかった。胸の奥に広がっていたのは、底れない恐怖と、それと同じくらいの澄み切った堵だった。
そのの午、私は自宅から自転で分の所にある、業団のさな印刷・段ボール加会社を訪れていた。
ハローワークで見つけた、求票。
『受発注管理・配送配事務 万円 賞与回(実績ヶ) 残業平均 転勤なし』
課の肩もない。部もいない。ただの現の事務員だった。
面接を担当した代の社は、私の職務経歴をじっくりと眺め、最にこう言った。
「佐野さん、あんたみたいなの課やってたが、うちみたいな油臭い町で満できるかい? 料も半分くだろう」
「満できます」
私は社の目をまっすぐに見つめて答えた。
「今の私に必なのは、肩でもい料でもありません。毎自分ので通えて、嘘をつかずに仕事をして、夜にはに帰って族と飯をえる所です。現の段取りと納期の調なら、やってきました。
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必ずお役にてます」
社はフッと笑い、元の類をポンと叩いた。
「決まりだ。来のから来てくれ」
帰宅すると、のの駐に、見慣れない軽自がまっていた。
古買い取り業者の男が、がの落ちのミニバン――翔太が学の頃に族でキャンプへくために買ったセレナの周りを、クリップボードを片に査定して回っていた。
玄関先には、由美がっていた。
「いくらになりそうですか?」
由美が尋ねると、業者の男は申し訳なさそうにをげた。
「距が万キロを超えてますし、のろに擦り傷がありますので……精杯頑張って、万円ですね」
「分かりました。それでお願いします」
由美は迷いなく売買契約にサインをした。
検の残りが半。自税、任保険、毎のガソリン代と駐代をわせれば、を放すだけで万円い固定費が浮く。
業者がミニバンを牽引してっていくのを、私と由美は並んで見送った。
族のいが詰まっただった。翔太がだらけのサッカーボールを積み込み、由美が助席でうたた寝をしていた、あのだ。
「……寂しいか?」
私がぽつりと尋ねると、由美はさく首を横に振った。
「ううん。し肩が軽くなったわ。これからは、で自転に乗ればいいじゃない」
由美はそう言って、私を見て微笑んだ。
その笑顔には、以のような無理なるさはなかった。
私たちは、自分たちの見栄やいに貼られていたすぎる値札を、枚ずつ、丁寧に剥がし始めていた。