"あなただけ辞めていいわけないでしょ" 第11話
甘い毒入りの内定通
その夜を境に、佐野の空気は変した。
トゲトゲしい声は消えたが、代わりにく、引き裂かれるような現実が再び私たちのにちはだかった。
曜の朝、翔太の『休学願』は、私のによってリビングの引きしの奥くにしまわれた。
「学にはけ」
私は息子にそう言った。
「休学届は父さんが預かる。来末までに、父さんと母さんで必ず筋をつける。それまでは、絶対に勝な真似はするな」
翔太は何も言わず、ただい取りで学へ向かった。
そして、運命の歯は皮肉な形で回り始めた。
職まで残り週となった曜の午、私のスマートフォンに見らぬ番号から着信が入った。
相は、かつて私の勤める会社の取引先だった、堅属加メーカーの専務取締役、野さんだった。
「佐野さん、の噂で聞いたよ。辞めるんだって?」
駅の喫茶に呼びされた私は、野専務と向かいっていた。野専務は髪の混じったを掻きながら、分いファイルを私のに置いた。
「うちの群馬の製造課が、急遽体調を崩して退職することになってね。現が混乱してがつけられない状態なんだ。佐野さんの産管理の腕と、現を締める厳しさは昔からっている。……どうだ、うちに来ないか?」
提示された条件は、予をはるかに超えるものだった。
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収、額面で百万。
現の百万には届かないが、歳の再就職としては破格の待遇だった。これなら、宅ローンも翔太の学費も、何つ諦めずに維持できる。
だが、野専務の次の言葉で、私の背筋にたいものがった。
「勤務は群馬の太田だ。佐野さんの自宅からだと、武線を乗り継いで片かかるな。毎朝半の始発に乗ってもらうことになる。それに……正直に言うが、現はかなり荒れている。残業はを超えるし、休勤も覚悟してほしい。て直しができるまでの最は、獄を見てもらうことになる」
専務は申し訳なさそうに、しかし切実な目で私を見た。
「佐野さん、無理を言っているのは分かっている。だが、君の経験が必なんだ。……返事は、来週の曜の朝までに頼む」
喫茶をると、たいのがり始めていた。
傘を持っていなかった私は、濡れるのも構わず駅へ歩いた。
ので、数字が渦を巻いていた。
収百万。片。の残業。
それは、私が逃げしたはずの「すり潰される々」の、さらなる過酷な延戦だった。けば、再び胃薬をみ、んだ目をして、今度は群馬ので誰かを追い詰め、自分を追い詰めることになる。
だが、この契約に判を押しさえすれば、佐野は救われるのだ。
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い取りで帰宅すると、玄関に由美がっていた。
そのには、通の封が握られていた。
「雅さん」
由美の顔には、微かな揚と、い戸惑いが入り混じっていた。
「受かったの。先週面接を受けた、こども発達支援センターのコーディネーター職」
「……あの、千百円の?」
「ううん、別の枠よ。週の専事務枠。発達障害を持つお子さんの通院スケジュールや、親御さんの相談窓を調する仕事。正職員じゃないけれど、社会保険も入れて、取りで万になるわ」
由美の目が、微かに輝いていた。
「面接官の方がね、私の医療事務の経験をすごく評価してくれたの。『病院の窓で患者さんの話を丁寧に聞いてこられたあなたのようなに、ぜひ来てほしい』って。……私、すごく嬉しかった」
私は濡れたコートを脱ぎながら、妻のその表を見つめた。
、見たことのない顔だった。「活のため」「族のため」に義務でこなす仕事ではなく、自分ので培ってきたものが、者に必とされたの顔だった。
だが、その仕事の収入は、取りで万。で百万にも満たない。
そして私ののには、収百万、だが確実に私のと体を破壊するであろう、群馬のの入社承諾があった。
神様は、どこまでが悪いのだろうか。