"あなただけ辞めていいわけないでしょ" 第10話
の病院の廊
私の告が終わっても、部のにはい沈黙が横たわっていた。
声も、非難もなかった。
ただ、「い父親」「頼れるの黒柱」を演じ続けてきた私のメッキが剥がれ落ち、そのに隠されていた々しい傷が、のに晒されていた。
ふいに、く震えるをすする音が聞こえた。
由美だった。
彼女は両で顔を覆い、指の隙から涙をポロポロとこぼしていた。
「……どうして」
由美の声は、ひどく掠れていた。
「どうして、そののうちに言ってくれなかったの?」
「言えるわけないだろ」
私はさく首を振った。
「のローンが残ってて、翔太が学に入ったばかりで……俺が音を吐いたら、このはどうなるんだ。俺が倒れたら、誰が支えるんだよ」
「私がいるじゃない!」
由美が顔をげた。その瞳は涙で濡れ、赤く腫れがっていた。
「どうして私を頼ってくれなかったの!? どうしてで抱え込んで、限界まで黙って、最に全部放りすみたいな辞め方をするのよ!」
「おだって……!」
言いかけて、私は言葉をみ込んだ。
由美は涙を拭おうともせず、自嘲するように笑った。
「そうね。私も同じよ。私もあなたに、度も本当のことを言わなかった」
由美は自分の胸元、鎖骨のしあたりをでく押さえた。
「のこと、覚えてる? あなたが産管理級の試験を受ける直の、」
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私の記憶が急速に巻き戻される。の。私は昇と資格取得がなり、毎晩夜まで勉し、庭のことなど切目に入っていなかった。
「職の健康診断でね、の胸にが見つかったの」
私の臓が、たいで掴まれたように収縮した。
「え……?」
「マンモグラフィの再検査になって、針検までやったわ。結果がるまで、週かかった」
由美は静かに、淡々と語り始めた。
「悪性の乳がんかもしれないって医師に言われた、病院の暗い廊の子で、私、夕方のまでで座ってた。携帯を握りしめて、あなたの番号を何度も押しかけたわ。……でも、かけられなかった」
「なんで……なんで話しなかったんだ!?」
私の声がずった。そんななことを、私は今の今までらなかった。
「話できるわけないじゃない!」
由美が叫んだ。
「その週末、あなたの昇の最終面接だったのよ! 何ヶも寝るを惜しんで勉して、毎ピリピリしてて……そんなあなたに『がんかもしれない』なんて言ったら、あなたの試験がめちゃくちゃになっちゃう! 佐野の未来が壊れちゃうって、そうったのよ!」
由美の涙が、テーブルの目を濡らしていった。
「幸い、結果は良性の線維腺腫だった。検の跡に貼られた絆創膏を、あなたに見つからないように毎晩お呂で隠しながら、私、で泣いたの。
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『良かった』ってしたんじゃない。『このは、私が本当ににそうになっても頼っちゃいけないなんだ』って、そうって絶望したからよ!」
呼吸が止まった。
界が激しく揺れた。
「私たちはね、雅さん」
由美は枯れた声で言った。
「支えってたんじゃないの。お互いを『絶対に倒れてはいけない頑丈な壁』だとい込んで、自分の痛みを隠すための壁にしてただけなのよ。……だから、同に倒れるしかなかったの」
テーブルの向こうで、翔太がさく息を呑む音が聞こえた。
息子は、父親と母親のあいだに積みげられていた「の沈黙」の正体を、今まさに目の当たりにしていた。
誰も悪はいなかった。浮気も、借も、暴力もなかった。
ただ、族を守るという義名分のもとに、互いのさを許しえなかったこと。そのこと自体が、この庭を内側から窒息させていたのだ。