"あなただけ辞めていいわけないでしょ" 第9話
潰れたプライドと本音
翔太が部に引きこもってから、が経っていた。
リビングには、つ折りにされた『休学願』が置かれたままだ。教務課の朱肉の赤が、蛍灯のでひどく鮮に浮きがっている。
由美はソファの端に座り、膝ので両をきつく握りしめていた。その指の関節はく張り、刻みに震えている。鳴り散らしていた先ほどまでの気配は消え失せ、まるで魂の抜け殻のようだった。
「……由美」
私は掠れた声で呼んだ。
妻は返事をしなかった。ただ、うつむいたままさく肩を揺らした。
「話そう。で」
私はちがり、翔太の部のに向かった。
ドアノブにをかける。鍵はかかっていなかった。ゆっくりとノブを回し、引き戸をけた。
畳のベッドので、翔太は壁を向いて横たわっていた。制を脱ぎ捨てた代とは違う、学のしびた私の背が、呼吸にわせてかすかにしている。
「翔太。……リビングに来てくれ」
返事はない。
「逃げるな。親がみっともない姿を見せたのは謝る。だが、休学だけは絶対に認めない。話を聞け」
沈黙のあと、翔太はのっそりと体を起こした。その目は真っ赤に充血していた。
「……何を話すの? またの話? どっちが苦労したかって話?」
「違う」
私は息子の目をまっすぐに見つめた。
「父さんが、本当のことを話す。
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……今まで度も、誰にも言わなかった話だ」
分、翔太は承承リビングの子に座った。由美の向かい、私の斜め向かい。テーブルの央には、依然として通の退職願と、通の休学願が並んでいる。
私はめきった麦茶を気にみ干し、喉を湿らせた。
「俺が会社を辞めたのは、疲れたからじゃない」
由美がゆっくりと顔をげた。翔太も線をかさない。
「先の半ば、うちの課の歳の部が辞めた。川井という、優秀な男だった」
私は自分の縮こまったのひらを見つめた。
「ここ、会社は急激なDX化をめていた。古い産管理の仕組みを全部捨てて、親会社主導のクラウドシステムに統する計画だ。だが、現の職や請けの町はついてこれない。毎のようにシステムエラーが起きて、納期が遅れ、現から号がんだ」
胸の奥が、あのの息苦しさをいして軋んだ。
「経営陣は『現の識改革がりない』と俺たち管理職を責めた。請けにはコスト削減をし、部には連の残業をいた。俺の仕事は、いつのにか『の無茶な数字を現に押し付け、現の鳴を握りつぶして会社に報告する』だけになっていた」
「……お父さん」
翔太が掠れた声を漏らした。
「川井が退職届を持ってきた、俺は会議で彼を引き止めようとした。
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『今辞めたら経歴に傷がつくぞ』『もうしでシステムも落ち着くから耐えろ』ってな。会社の代弁者として、もっともらしい説教を垂れたんだ」
私は自嘲気にの端を歪めた。
「そうしたら川井が、泣きそうな目で俺を睨みつけて言ったんだよ。『課、あなただってこの会社に絶望してるじゃないですか。自分でも信じてない嘘をついて僕たちをすり潰して、楽しいですか?』って」
リビングが静まり返った。
「その瞬、のでブツンと何かが切れた。その夜、帰りの満員ので急に息ができなくなって、宿駅のホームのベンチでけなくなった。……俺は、守ってきた自分の仕事が、ただの『誰かを幸にする歯』に成りがっていたことに、耐えられなくなったんだ」
私はをげた。
妻のでも、息子のでも、度も見せたことのない、無様でみっともない父親の告だった。