"あなただけ辞めていいわけないでしょ" 第3話
通帳の数字とえた噌汁
夜のを回っても、息子の部のドアはかなかった。
私たちは付かずの夕をラップもかけずに放置したまま、ダイニングテーブルを挟んで向かいっていた。
由美がちがり、リビングのサイドボードの引きしから、濃紺の分いビニールケースを取りしてきた。テーブルの央にドサリと置かれる。
「現実の話をしましょう」
チャックがかれ、から何冊もの通帳と、宅ローンの返済予定表、各種保険の証が引きずりされた。
私は唾をみ込んだ。
、私は自分の料の全額を、こののメイン座に振り込んできた。毎そこから万円の遣いをもらい、それ以のの管理はすべて由美に丸投げしていた。「銭管理は得な方がやればいい」「俺はで稼ぐのが仕事だ」と、都のいい義名分を盾にして。
由美がいたの通帳が、私のに差しされる。
そこに印字されていた最終残を見て、私は目を疑った。
『2,418,520』
「……これだけか?」
わず声がずった。
「嘘だろ? 俺の収、額面で百万はあったはずだぞ。ボーナスだってわせて百万以てた。もっと貯があるはずだ!」
「どこにあるとうの?」
由美の差しは、真の夜ののようにたかった。
「翔太の学の入学と初度期の授業料で、百万。
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の、築の壁塗装と漏り修理で、万。それから、あなたのお母さんが胆で倒れて術した、差額ベッド代と付き添いの交通費、どこからしたとってたの? 全部、この座よ」
「それは……」
「あなたが毎『俺の稼いだだ』って顔をして渡してくれてた料から、宅ローンが毎万千円引かれてるの。ボーナスにはさらに万加算。管理費と固定資産税を割りにすれば、居費だけで万。費、費、通信費、翔太の通学定期と遣い。……毎、いくら残るとってた?」
私は言葉に詰まった。計算したことなど、度もなかった。
「毎、ギリギリよ。私の取り万がなかったら、とっくに赤字だったの」
由美は淡々と、しかし容赦のない事実を突きつけてくる。
「私の勤めた退職なんて、自己都なら百万そこそこよ。あなたの退職は? 定まであと残して辞めるんだから、満額はないんでしょ?」
「……会社規定の掛け率で、おそらく百万だ」
「計して千百万」
由美は卓を叩くこともなく、滑らかに数字を弾きした。
「宅ローンの残債が、千百万。退職を全部突っ込んで括返済したら、元に残る現は百万らずよ。それで、翔太の学期の学費万を払ったら? 百万円で、私たちはどうやって暮らしていくの?」
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喉の奥がカラカラに渇いた。
私は、自分がどれほど甘いを抱いていたかをいらされていた。
会社を辞めるとき、私は確かに「なんとかなる」とっていた。退職でし息を抜き、半ほど休養してから、これまでのキャリアを活かして別の会社で働けばいい。由美の収入もあるのだから、活が破綻することはない――。
無識のうちに、私は妻を自分のセーフティネットにしていたのだ。
自分がどれほど組織にすり潰され、どれほど逃げしたかったとしても、そのツケを妻が無条件で引き受けてくれると信じ込んでいた。
「由美……俺が悪かった。軽率だったかもしれない」
私は絞りすように言った。
「だが、おまで辞める必はないだろ。おの仕事は、このにとって最の防波堤なんだ」
由美はその言葉を聞いた瞬、く、く息を吐きした。
その瞳に浮かんだのは、りではなかった。底れない失望だった。
「防波堤。……やっぱりあなたは、私のことをそうやって見てたのね」