"あなただけ辞めていいわけないでしょ" 第2話
あと週の猶予
「ふざけるなよ!」
横から激しい号がんだ。
翔太だった。息子の座っていたパイプ子が派に倒れ、ガシャンとに打ちつけられた。
「とも、本気で言ってんの!?」
翔太の顔は、りと恐怖で潮していた。歳。今のに私学の文系学部に入学したばかりの息子だ。までは親の言うことに従う温な性格だったが、こんなに声を荒らげる姿を見るのは初めてだった。
「父さん、会社辞めたって何だよ! のローンどうすんだよ! あと残ってんだろ!?」
「翔太、落ち着け。父さんだって何も考えてないわけじゃ――」
「落ち着けるわけないだろ!」
翔太は私の言い訳を鳴り散らして遮った。
「学期の学費、来の半ばが納入期限なんだよ! 万以かかるんだぞ! 母さんまで辞めたら、俺の学費誰が払うんだよ! しての自分探しごっこでも始める気か!?」
その言葉は、父親としての私のプライドを容赦なく抉った。
私は反論できなかった。、毎朝満員に揺られ、理尽な経営陣と扱いにくい部の板挟みになりながら、胃薬を噛み砕くようにして稼いできた。俺はこののために分すぎるほど犠牲を払ってきたはずだ――そんな勝な自負が、息子の正論のにガラガラと音をてて崩れていく。
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由美は倒れた子を見つめたまま、平然とした声で言った。
「翔太。あなたの学費のことは、ちゃんと考えてあるわ。でもね、お父さんが辞めるなら、私も辞める。それだけよ」
「由美、おいい加減にしろ!」
私はテーブルののい封筒を指差した。
「当てつけでそんなものしてきたんだろうが! 俺が辞めるって言ったから、仕返しに脅してるだけだろ!?」
由美は無言で封筒のフラップをけ、の便箋を本指で引きした。
番のには、付が記されていた。
今から週の付だった。
「あなたが言いすから、私はこれを用してたの」
由美の声には、寸分の揺らぎもなかった。
「域の総病院の医療事務。勤めたわ。毎レセプト点検に追われて、窓で患者に鳴られて、それでも『私が定してなきゃいけないから』って、胃に穴がきそうになりながら続けてきた。……でも、もう限界なの」
「限界って……おの仕事は残業だってなかったし、だって休めてただろ!」
「私の仕事が楽そうに見えてたんだ」
由美がフッとの端を歪めて笑った。その笑が、どんな罵詈雑言よりもく私の胸に突き刺さった。
「そうね。あなたにとって私の仕事は、庭の穴を埋めるための『都のいいパートの延』くらいにしか見えてなかったものね」
「そんな言い方――」
「もういいよ」
翔太が吐き捨てるように言った。息子の肩が刻みに震えている。
「勝にしろよ。どっちも最だ」
翔太は自分のスマホを乱暴にポケットに突っ込むと、ドスドスと音を荒てて廊へていき、自分の部のドアを破壊せんばかりの勢いで叩き閉めた。
い静寂が、再びリビングを支配した。
え切った焼き鮭と、表面にい油が浮き始めた噌汁。
テーブルの央には、私の見えない退職届と、由美のしたい封筒が、まるで互いを牽制するように並んでいた。
私たちの雇用契約が正式に切れるのは、来末。
猶予は、あと週しかなかった。