"今回は、探さない" 第17話
ベランダからかけた朝の話
翌朝、午半。
の朝のたいが、いカーテンの隙から差し込んでいた。
私がキッチンで朝の噌汁を作っていると、寝の引き戸がき、スーツを着た達也がてきた。
につけているのは、あの、歳のリーダーに鳴られた、量販の濃紺のスーツだった。
ネクタイは曲がっておらず、靴も真しい。
目のの隈は消えていないが、その表には、昨夜までの迷いは微もなかった。
達也はダイニングテーブルのに置かれた枚の類のうち、側の枚――佐野の会社の内定通を取りげた。
そしてスマートフォンを握りしめ、リビングを横切ってベランダへとた。
ガラス戸の向こうで、気を含んだが達也の髪を揺らした。
夫が背筋を伸ばし、スマートフォンをに当てる姿を、私はお玉を持ったまま見つめていた。
通話が繋がったらしい。達也がくをげた。
「……佐野さん、おはようございます。朝くに申し訳ありません。佐藤達也です」
窓ガラス越しに、夫の澄んだ声が微かに聞こえてきた。
「先は、に余る内定をいただき、本当にありがとうございました。……はい。変申しげにくいのですが、今回のオファーを、辞退させていただきたくお話いたしました」
話の向こうで、佐野が何かを激しく問い返しているのが像できた。
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収百万円、った福利、これ以ない好条件。
それを蹴る理由など、常識なビジネスマンであれば理解できるはずがない。
達也は相の言葉を静かに聞き届け、それから、しっかりとを向いてをいた。
「佐野さん。私のような者にを差し伸べてくださったこと、そして私の言葉を真正面から聞いてくださったこと、涯忘れません。……ですが、今の私は、度すべてを捨てて、自分の元を固め直さなければならない所にいます。甘えを断ち切り、を啜ってでも、ゼロから自分の力で組織を作っていきたいとえる会社に会いました」
夫の背は、かつて見たどの瞬よりもきく見えた。
「はい。妻にも、子どもたちにも話しました。族を巻き込む覚悟ので、私が自分で決めたことです。……本当に、ありがとうございました。佐野さんのご期待に沿えず、申し訳ありません」
達也はもう度、く、直角に腰を折って礼をした。
通話を終えた夫は、スマートフォンをろし、の澄み切った青空をしばらく見げていた。
く吐きされた息が、朝のに溶けていく。
ベランダから戻ってきた達也は、たくなったで内定辞退の通を丁寧に折りたたみ、鞄の底へと仕い込んだ。
そして、側の――古川社の派遣会社の契約をに取り、署名欄に迷いのない致で自分の名をき込んだ。
「麻」
「ん?」
「ってくるよ。古川社に、直接これ渡しにく」
「うん。いってらっしゃい」
達也が玄関へ向かう。
靴を履き、ドアノブにをかけたとき、夫がふとち止まり、振り返った。
その顔には、会った頃のような、照れくさそうな、けれど屈託のない笑顔が浮かんでいた。
「……ありがとうな。ドアを、けっ放しにして待っててくれて」
バタン、と玄関のドアが閉まる音がした。
取りは軽く、気よい革靴の音が階段を駆けりていくのが聞こえた。
私は鍋のを止め、エプロンの端で目元をそっと押さえた。
彼が自分ので、しいドアをけてていったのだ。