"今回は、探さない" 第15話
卓の央に置かれた枚
曜の夜、がのダイニングテーブルの央には、通の類が並べられていた。
夕の鍋からちる湯気の向こうで、いに印字された文字がたくっている。
側は、通信系列である佐野の会社からの内定通。
『提示収:百万円』。
側は、雑居ビルに事務所を構える登録型派遣会社からの正社員登用契約。
『定収:約百万円』。
百万円のき。
数字がする現実を、このにいる全員が正確に理解していた。
も、学の男の蓮も、箸をかす速度が極端に落ちていた。
グツグツと煮える菜と豆腐の音だけが、自然なほどきく響いている。
、曜の午が、両社に対する最終回答の期限だった。
「お父さん」
沈黙を破ったのは、だった。
娘は取り皿のに線を落としたまま、ぽつりと言った。
「どっちにするか……決めたの?」
達也のが止まった。
元を見つめる夫の指先には、ここヶのび込み営業でついた擦り傷やの切り傷が、まだ赤く残っている。
代の若者に罵倒されながら、まみれのスラックスで歩き回ったヶ。
夫の顔つきは以より引き締まり、傲な脂の抜けた、引き締まった横顔になっていた。
達也はすぐには答えなかった。
喉仏がごくりと度き、それから、テーブルの向かいに座る私へと線を向けた。
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――その瞬、の習慣が、夫の瞳の奥に蘇ったのを私は見た。
迷ったとき、ち止まったとき、どちらのをくべきか測りかねたとき。
達也はいつも、こうして私を見てきたのだ。
『おなら、どっちが正しいとう?』
『麻なら、どうする?』
無言の問いかけが、私の胸の奥をく揺さぶった。
私のので、編集者としての、そしてこのの共同運営者としての計算式が、瞬に組みがっていく。
百万円を選べば、宅ローンの借り換えも必ない。
を予定通り休みの留学にかせてやれるし、蓮の学に向けた積にもをつけずに済む。
佐野の会社には達也自らの言葉で挑み、実力で内定を勝ち取ったのだから、ろめたさをじる筋いはない。
世体も、活準も、将来のも、すべて側のが保証してくれる。
「佐野さんのところにけばいいじゃない」
その言が、喉のすぐまでかかっていた。
私がそう言って背を押せば、達也は堵し、この苦しい空気は瞬で吹きぶはずだった。
けれど、私の指先は、膝のでかなかった。
ここで私が正解を与えてしまえば、達也はまた、私が差しした答えのを歩くことになる。
『妻が勧めたから』
『族のために仕方なく選んだから』
いつか挫折したとき、彼は無識にその言い訳に逃げ込むだろう。
そして私もまた、『私が正しいを選んであげた』という優越に縋り続けることになる。
私は元に力を込め、喉までがってきた理な正解を、静かに胃の底へとみした。