"今回は、探さない" 第14話
つの内定通
曜の夕方、達也のスマートフォンに通のメールが届いた。
佐野の会社からの、正式な内定通だった。
『シニアアカウントマネージャー職としての採用を内定いたしました。提示収:百万円。入社予定:翌』
画面を見つめる達也のが、刻みに震えていた。
百万。
宅ローンも払える。の留学もかせてやれる。何より、社会な体面も、収入も、の活と何つ変わらない準を取り戻すことができる。
の危は、ったはずだった。
けれど、達也の顔には、放しの歓は浮かんでいなかった。
彼はリビングのテーブルのに、もう枚の類を並べて置いた。
そこには、くたびれた会社の角印が押されていた。
達也がこの週、まみれになってチラシを配っていた、あの登録制の派遣会社からの枚だった。
「……今な、当を受け取りにったとき、古川社に呼ばれたんだ」
達也がぽつりと言った。
古川社は、代半ばの、元ラガーマンのような体格の若い経営者だった。
「社に入ったらさ、缶の温かいお茶をされてな。『佐藤さん、うちの正社員にならないか』って言われたんだ」
「え……?」
「最初はを疑ったよ。俺みたいな、パソコンもおぼつかないおっさんを、なんでって。そしたら社が言ったんだ。
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『あんたが若いバイト連に混ざって、文句も言わずに靴底減らして歩き回ってるの、現のリーダーから全部聞いてる。歳の気なリーダーがな、佐藤さんの顧客への丁寧な話し方を見て、自分の営業スタイルを見直したって言ってきたんだよ』って」
達也の線が、派遣会社の契約に落ちた。
「『うちはまだちげたばかりの零細企業だ。した料はせない。でも、佐藤さんみたいなが組織の台にいてくれたら、この会社は絶対にくなる。緒に会社をきくしてくれないか』ってをげられた」
私は契約の条件欄に目を落とした。
『基本:額万円。賞与:業績連。定収:約百万円』
の会社の、およそ割。
佐野の会社が提示した百万とは、百万円以のきがあった。
この額では、毎の収支はギリギリだ。
贅沢は切できない。にもバイトを続けてもらい、族全員で節約を続けなければ、計は回らない。
側には、企業の板と、百万円の収入。
妻のりいの会社であり、世体も完璧な、かつての活を取り戻せる。
側には、雑居ビルの零細企業と、百万円の収入。
と汗にまみれ、ゼロから自分ので組織を作っていく、過酷な。
枚の内定通が、夕暮れのリビングのテーブルのに並んでいた。
どちらを選ぶべきか、数字のでの正解は誰の目にもらかだった。
けれど達也は、その枚のを見つめたまま、微だにしなかった。
「……麻」
達也がゆっくりと顔をげた。
その瞳には、かつてないほどの迷いと、そして、彼自の魂の輪郭が宿っていた。
返事の締め切りは、両社ともに週けの曜。
残されたは、この週末のだけだった。