"今回は、探さない" 第8話
歳のチームリーダー
達也がをてから、夫のにらかな変化が現れた。
朝の、私が起きるよりもく、達也はリビングで支度をえていた。
着ているのは、仕ての良い勝負スーツではない。量販で買った、くたびれた物の濃紺スーツだった。
ネクタイもなものを選び、いつもの革のビジネスバッグではなく、古い布製のトートバッグを肩にかけていた。
「……ってくる」
私が朝のトーストを焼いていると、達也はくそう言って玄関へ向かった。
どこへくのかは言わなかった。
私も敢えて尋ねなかった。
ただ、玄関の靴箱のに、枚のチラシの切れ端が落ちているのを見つけた。
『即勤務・フィールドセールス補助スタッフ募集・払い対応』
それは、かつて達也が「あんなものは学の遣い稼ぎだ」と見していた、登録制の派遣会社のものだった。
そのの夜、達也が帰宅したのはかった。
玄関の鍵がく音がして、い音が廊に響いた。
迎えた私の目にび込んできたのは、見たこともないほどまみれになった達也の姿だった。
スラックスの裾にはがね、靴の爪先は擦り切れていた。
何より異様だったのは、両の指先だった。
たいに晒され続けたのか赤く腫れがり、あちこちにさなの切り傷ができていた。
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達也はがり框に腰をろしたまま、靴紐を解こうとした。
だが、かじかんだ指先が刻みに震えて、固結びになった紐を解くことができない。
乱暴に引っ張っては失敗し、達也はさく唸り声を漏らした。
私は無言でづき、達也の元に膝をついた。
のついた靴紐に指をかけ、ゆっくりと結び目を解いていく。
「……触るな」
掠れた声がからってきた。
だが、私を押しのける力は、今の達也には残っていなかった。
「お呂、沸いてるよ」
「……」
達也は靴を脱ぐと、壁にをつきながらリビングへと入った。
ダイニングテーブルのに、布のトートバッグから取りした類を放りす。
そこには、今の作業報告の控えがあった。
郊の宅を歩き回り、回線のパンフレットをポストに投函し、宅のにインターホンを押して回る仕事だった。
「件だ」
達也がぽつりと言った。
「百軒回って、話を聞いてくれたのが、たったの件。契約はゼロだ」
達也は震える両を見つめた。
「チームリーダーは、歳だったよ。学をたばかりの、として歳が変わらない男だ」
夫の喉が、引き攣るようにいた。
「タブレットの入力が遅いって、みんなので鳴られた。『おじさん、文字打つのもトロいなら何しに来たの? 営業経験って嘘でしょ』ってさ。
周りの若いバイト連が、クスクス笑ってたよ」
達也の肩が、さく震え始めた。
りではない。
屈辱と、肉体な限界と、まれて初めて「何の価値もない自分」を突きつけられたことによる、い震えだった。
「俺は……何も言い返せなかった。だって事実だからな。システムの使い方つわからず、図アプリの操作もおぼつかなくて、歳の若者にまとい扱いされて……」
達也は顔を覆った。
指の隙から、掠れた息が漏れる。
「俺のは……何だったんだろうな、麻。俺がやってきた営業って、会社の名があって、板があって、取引先がをげてくれてただけだったのかよ。俺自には、何の力もなかったんだ……」
、このがこれほどまでに無防備に、自分の無力さを認めた瞬を、私は見たことがなかった。