"今回は、探さない" 第7話
「課」という名の抜け殻
子どもたちが眠りについた夜。
キッチンで洗い物を終えた私に、背からく沈んだ声がかけられた。
「……満かよ」
振り返ると、リビングの暗がりのに達也がっていた。
照をつけていない部で、夫の輪郭だけがぼんやりと浮かんでいる。
「何が?」
「にまであんな惨めないをさせて、俺をあそこまで追い詰めて……おは満なのかって聞いてるんだ」
達也がゆっくりと歩み寄ってきた。
その目には、真っ赤な充血と、剥きしの憎しみが宿っていた。
「おが本話をしてくれれば、済んだ話だろ」
「達也さん」
「佐野の会社だ! 広報だか営業だからないが、あいつのところなら俺の職歴ならいくらでも通るはずだ! おが言『夫をよろしく』って頼んでくれれば、俺はこんな屈辱をわわずに済んだ! に留学を諦めさせることもなかった! 全部、おがを張ってを閉ざしてるからだろ!」
胸の奥が、たい刃物で削られるような痛みを覚えた。
けれど、私の声は驚くほど静かだった。
「佐野の会社にけば、すべて解決するとってたの?」
「当たりだ! 系列で、待遇も今と変わらない! 何より、あいつがに入ってくれれば、俺ののキャリアを尊してもらえる!」
「尊?」
私はシンクの縁を指先でく押さえた。
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「達也さん、あなたは『族のために』って言ったわね。でも、本当に族のためなの?」
「何だと?」
「もし本当に族の活を守るためなら、収百万の商社でも、び込み営業の宅メーカーでも、をげてび込むべきだったんじゃないの? どうして断ったの? 族がに迷うかもしれないのに、どうして割の料を『端』って言って捨てたの?」
達也の唇が震えた。
「それは……俺の実績に見ってないからだ……」
「違う」
私は歩、達也にづいた。
「あなたは仕事を探してるんじゃない。『課』と呼ばれていた過の自分を、そのまま買い取ってくれる都のいい所を探してるだけよ」
「麻!」
「び込み営業の入社員の輪に入るのが怖いのよ。の若造に使われるのが耐えられないのよ。佐野の会社にきたいのは、妻のコネで特別扱いされて、傷つかずにプライドを守りたいからでしょ? あなたが守ろうとしてるのは、族じゃない。あなたのちっぽけな見栄よ」
「黙れ!」
達也がを振りげた。
私は目を逸らさず、まっすぐに夫を見据えた。
振りげられた達也のが、空でカタカタと震えていた。
殴る勇気すらない。
、誰かが敷いてくれた全なレールのを歩いてきた男の、これが本当の姿だった。
「……打ちなさいよ」
私の静かな声に、達也は息を呑んだ。
やがて、振りげたが力なく落ちた。
「おは……本当に、恐ろしい女だな」
達也は絞りすようにそう言うと、背を向けた。
玄関の引き戸がく音がして、たいの夜が廊に吹き込んできた。
達也はコートも羽織らず、サンダルのまま夜のへとていった。
私は暗いキッチンにち尽くしていた。
言い過ぎただろうか。
彼を崖っぷちから突き落としただけなのではないか。
だが、あの虚栄の皮を剥ぎ取らなければ、このは度と自分ので面を踏むことはできない。
喉の奥に、苦い血のが広がるような夜だった。