みかん小説
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"今回は、探さない" 第2話

赤ペンで囲まれた空

達也の就職活は、最初ので完全に暗礁に乗りげた。

歳、営業経験。

課職まで務めたという自負が、達也の背を無駄に頑なにしていた。

転職サイトに登録し、っている名の企業に社ほど括でエントリーシートを送ったらしいが、返ってきたのは判を押したような「お祈りメール」の通ばかりだった。には自返信で即落とされたものすらあった。

夜、リビングの空気がごとに濁っていくのがわかった。

達也はスーツ姿で帰宅するものの、どこへっていたのかは言わない。図館か、駅の喫茶でを潰していたのだろう。ネクタイに染み付いた煙とコーヒーの匂いが、彼の苛ちを物語っていた。

目の夜、達也がダイニングテーブルのに枚のA4用を放りした。

「……ちょっと見てくれ」

見しには『職務経歴』と印刷されていた。

達也は腕を組み、私から線を逸らしたまま子に座った。

私は赤のボールペンを本持って、向かいに腰をろした。

用に目を落として、すぐに違を覚えた。

『これまでの経験』の欄には、美しい言葉ばかりが並んでいた。

「チームを牽引し、比百パーセントの売を達成」「輩の育成に注力し、職率のに貢献」「顧客との信頼関係構築を最優先とした提案型営業を展」

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。

「これ、あなたがで成し遂げた数字?」

私の問いに、達也がぴくりと肩を揺らした。

「チーム全体の数字だ。俺が課だったんだから、俺の実績で違いないだろ」

「採用担当者がりたいのは、会社の板や部の頑張りを除いたとき、あなたが具体に何をして、どんな失敗をどう乗り越えたかだよ。この文章には、具体ながつもかれていない」

私は赤ペンをらせた。

「チームを牽引」という文字を丸で囲み、「具体策は何か?」とき込む。

「信頼関係構築」を波線で引き、「社との競にどう勝ったのか」と追記する。

「ここもそう。『角な点から課題を解決』。これじゃ何も言ってないのと同じ。の会社で扱っていた製品は、業界内でのシェアが元々かったんでしょ? その駄を履いていた状態から、あなたが自分の志でかした案件をつでも具体にかないと、歳の転職では秒で弾かれる」

のは、あっというに私の入れた赤字で埋まっていった。

編集者としての原稿を容赦なく削る癖が、無識にていたのかもしれない。

達也の顔が、りと屈辱でみるみる赤褐に染まっていった。

「お、さっきから偉そうに何なんだよ」

達也がテーブルを叩いた。赤ペンがねて、に落ちた。

「俺が、どんないで営業回ってきたかりもしないくせに! 言葉の端っこ捕まえてダメしするだけなら、誰だってできるだろ! そんなに文句があるなら、おが全部き直してくれよ! 文章のプロなんだろ!」

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「き直さない」

私はに落ちた赤ペンを拾い、キャップを閉めた。

「私が綺麗にえた文章で面接にっても、自分の言葉で説できなければそのでボロがる。これは達也さんのだよ。に代してもらった言葉で、次の居所が見つかるわけない」

「もういい!」

達也が経歴を乱暴にひったくった。

そのとき、廊の引き戸が静かにき、のがっていた。

制のカーディガンを着た娘は、張った顔で私たちを見つめていた。

「お父さん、お呂沸いてるよ」

達也は何も言わず、を丸めてポケットに突っ込み、にリビングをていった。

静まり返った部で、がたい目で私を見据えていた。

「お母さん、なんであんな言い方するの?」

「……」

「お父さん、今すごく困ってるじゃん。毎必なのに、なんでお母さんはあんなにから目線なの? 助けてあげればいいじゃん。お母さん、りいいっぱいいるんでしょ? なんでこんなにまで、お父さんをいじめるの?」

娘の言葉は、達也の鳴り声よりもく胸に刺さった。

歳のにとっても、このは「お母さんが何とかしてくれる所」だったのだ。

私が何も言えずにち尽くしていると、はたく線を切り、自分の部へと戻っていった。

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