"今回は、探さない" 第1話
の蛇を止めた音
「おのりい、誰か紹介してくれないか」
プシュ、とアルミ缶のプルタブを起こす乾いた音が、狭いダイニングに響いた。
達也は本目のビールをけていた。
夕方、突然の部署閉鎖に伴う員理――事実のリストラを言い渡されて帰宅した夫は、スーツのネクタイを緩めたまま、テーブルに肘をついていた。
私はキッチンのシンクで、夕の皿を洗っていた。
泡ったスポンジをかすを、ほんのしだけ止める。
の結婚活。達也が堅の械部品メーカーで、営業として真面目に働いてきたことはっている。けれど、彼がの節目で何かに躓いたときにする台は、いつも決まっていた。
「ほら、お、版とか広告とか、企業の広報とも付きいあるだろ。顔広いんだからさ。どこかポスト空いてないか、軽く声かけてみてよ」
蛇から流れるの音だけが、私たちのに落ちていた。
私はレバーを押しげ、を止めた。
静まり返ったキッチンで、泡のついたゴム袋をす。
「今回は、探さないよ」
達也はビール缶を元に運んだまま、きを止めた。
「……は? なんて言った?」
「紹介はしない。誰にも話しないし、頼み込みもしない」
夫の顔から、気に酔いが引いていくのがわかった。眉にい皺が刻まれ、声のトーンが段くなる。
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「お、本気で言ってるのか? 俺が今、会社を放りされたのってるよな? 退職がると言っても、せいぜいヶ分だぞ。宅ローンも、の塾代もある。ヶ以内に次の仕事を見つけなきゃ、うちは破綻するんだぞ」
「わかってる」
「わかってて言ってるのか? 夫婦だろ。困ったときに助けうのが族じゃないのかよ」
達也の声には、苛ちと同に、純粋な困惑が混ざっていた。
彼にとって、私の脈は「庭の共財産」だったのだ。
達也がの会社で営業所との折りいが悪くなったとき、部署の報を探る助けをしたのは私だった。
の転職のとき、最初の面接の糸を掴んできたのも、私の元同僚のツテだった。
になった娘のが学塾の特別枠に入れなかったときも、私がの伝を辿って話を通した。
達也はそれを「夫婦の助けい」と呼び、私はそれを「族を守るための当然の務め」だとい込んできた。
けれど、目の今夜、私ので何かがたくえ切っていた。
ここで私がまたスマホを取りし、をげて誰かに話をかければ、達也は来週にはどこかの面接に潜り込めるかもしれない。
でも、それは彼が自分でに入れた所ではない。
もし私が先回りして敷いたレールのを歩かせるのをやめたら、このはどうやって自分ので歩くのだろう。
そして何より――誰かの問題を肩代わりすることでしか自分の居所を確かめられない私自も、ここでち止まらなければならなかった。
「見は聞くよ。履歴だって、客観な目線で見る。でも、私が先にドアをけてあげることはしない」
「……たい女だな」
達也は吐き捨てるように言い、ビール缶をテーブルに置いた。底に残った泡が、目板にさくねた。
「おがそんな奴だとはわなかったよ」
達也はリビングをて、寝の引き戸をい音をてて閉めた。
残されたキッチンで、私はシンクの底を見つめていた。
袋をした指先が、妙にたかった。
本当にこれでよかったのだろうか。
ヶ。
庭の座から数字が消えていくまでの猶予は、それだけしかなかった。