"七年の指輪を外す夜" 第21話
私の胸の奥が、ほんのしだけ、古傷のように痛んだ。 けれど、私は目を逸らさなかった。
「分かってるわ。……あなたが学代、命をかけて私を守ってくれたこと、終を逃してまで会いに来てくれたこと、あの頃のあなたのが本物だったことは、今でも度だって疑っていないわ」
琢磨の瞳に、すがるようなが灯り、目が赤く染まっていく。 私は、そのを優しく、だが完全に断ち切るように言葉を続けた。
「でもね、琢磨。……何百もの記者ので、私たちのを『もう同じ未来を歩けない関係だ』と言い放ったあののあなたもまた、紛れもない本物のあなたなのよ」
「咲……」
「は変わるの。私は、あなたが野に呑まれて変わってしまった現実を受け入れたわ。だから……あなたも受け入れて。昔のあなたが好きだったからといって、私はこれからの残りのを、あなたが昔の姿に戻ってくれるのを待つためだけに浪費するつもりはないわ」
琢磨は、いい沈黙の、泣きしそうな掠れた声で最に尋ねてきた。
「……度も、やり直せる能性はないのか?」
私は、迷うことなく首を横に振った。
「ないわ」
それが、私がの関係ので、彼に対して初めて確に突きつけた「拒絶」だった。 そして、それが最だった。
琢磨は、もう私の腕を掴もうとはしなかった。 私は傘をき、激しいのる通りへと歩みした。
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歩の脇に、見慣れた漆黒のセダンが静かにしていた。 運転席から傘を差してりてきた条礼司が、たまりを避けるようにして股で歩み寄ってくる。 彼は何も尋ねず、ただ持っていたきな傘を、私のへとく傾けてくれた。
に乗り込み、の効いた内へ滑り込むと、礼司は濡れた私の肩に清潔なハンドタオルを渡してくれた。 が通りへと滑りす。ワイパーが、激しい粒をリズミカルに払っていく。
私はタオルで髪を拭きながら、窓のを見つめてぽつりと呟いた。
「……さっきの会話、聞こえてた?」 「しな」 「私……すごく愚かな女に見えるでしょう。たったの男のために、をびして、自分の代のを全部使い果たしてしまったんだもの」
礼司はハンドルを握ったまま、方を見据えて静かに言った。
「あの頃のおは、本気であいつをしていたんだろ」 「……ええ」 「だったら、誰かを本気でした過そのものは、恥じるべき黒歴史でも何でもない。の糧だ」
彼はウインカーをし、交差点を曲がりながら言葉を継いだ。
「本当に愚かなのは……もうわないと分かっている相に対して、『過のがもったいないから』というサンクコストの言い訳だけで、これからの残りの何という未来まで差ししてしまうことだ。
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おは、正しい引き際を選んだ」
そのあまりにも理で、温かい言葉に、私はわずさく吹きしてしまった。
礼司との関係がしずつ形を変え始めたのは、そのの夜からだった。 ドラマのような劇な告があったわけでも、派なサプライズがあったわけでもない。 ただ、つのグループの共同プロジェクトを通じて、共にビジネスの最線で汗を流すが自然と増えていった。
私が阪のへ張した、彼もたまたま関の投資先を回っていれば、『阪の駅で夕飯でもうか』といメッセージが届いた。 礼司が神ホールディングスとの定例協議で本社に来たは、母が『礼司君、たまには顔を見せていきなさい』と引に夕の席へと引き止めた。 プロジェクトの投資リターンを巡って、会議で互いに歩も引かずに激論を戦わせ、帰りの内でお互いに分もをきかなかったことすらあった。
けれど、琢磨との関係と決定に違っていたのは。 条礼司という男は、私の能力やさを、決して恐れたりにったりしなかったことだ。 私が鋭い分析をして事業の穴を突いても、彼は『なるほど、その点は見落としていたな』と素直に認め、自らの性をさらに研ぎ澄ませて打ち返してきた。 私が仕事で成果をげ、周囲から賞賛を浴びたからといって、彼自の男としての価値が損なわれることなど微もないということを、彼自が誰よりもくっていたのだ。