"七年の指輪を外す夜" 第20話
現は使いたがっていても、法務と財務が判を押せないんだよ」
目から鱗が落ちるような衝撃だった。 そこから、私と礼司の夜の検討作業が始まった。 気づけば計の針は午を回っていた。 翌朝、私は法務チームを総員して契約方式そのものを「包括サービス利用契約」へと全面に組み直した。 週、撤退を通告してきたその企業は、正式な本契約を結んで実証実験へと復帰してくれたのだ。
この件を突破として、事業の歯は劇な勢いで噛みい始めた。 半目――。 私が引き継いだサプライチェーン事業は、ちげ以来初めて、単黒字化を達成した。
次の経営会議の席、報告を聞き終えた父が発した言葉は、元のファイルを閉じながらの、たった言だけだった。
「……続けろ」
に帰ると、母が台所でクスクスと笑いながら教えてくれた。 「お父さん、あなたの黒字化の報告、昨夜寝るにベッドので老鏡をかけて、嬉しそうに回も読み返していたわよ」 私は、久しぶりに声をして笑った。
季節は巡り、激しいのるの夜だった。 仕事を終えて本社ビルのエントランスをると、広なガラスキャノピーの軒に、傘も差さずにち尽くしているの男の姿があった。
相沢琢磨だった。
ずぶ濡れになって同を引こうとしているわけでもなく、ただ、疲れ果てた表で、の帳を見つめていた。
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私がづくと、彼は音に気づいてハッと顔をげた。
「……何かあったの?」
私が尋ねると、琢磨はく、苦い息を吐きした。
「……希との婚約を、解消した」
私は、傘の柄を握ったまま、瞬だけを止めた。
「そう」 「……理由は、聞かないんだな」 「ののことでしょう。私には関係ないわ」
琢磨は、力なく自嘲の笑みを浮かべた。
「昔の咲なら……何があったのか、配して根掘り葉掘り聞いてくれたのにな」 「昔は、あなたが私の恋だったからよ。今は違うわ」
が、舗装されたアスファルトを激しく叩き、い煙をげていた。 琢磨は、ポケットに両を突っ込んだまま、震える声で言った。
「咲。……今夜ここに来たのは、許してほしいからじゃないんだ。度だけでいいから、君にちゃんと謝りたかった」
彼は、粒に濡れた髪の隙から、まっすぐに私を見つめた。
「俺……本当にい込んでたんだよ。咲はもう、俺の仕事やアスターリンクの未来に興を失ってしまったんだって。会社の相談をしてこなくなったし、イベントにも顔をさなくなった。だから、もう俺のことなんてどうでもよくなったんだって……そう信じ込もうとしていた」
彼は線を落とし、拳を握りしめた。
「でも、違ったんだよな。……君は、分からなくなったんじゃない。俺の傲な態度を見て……これ以傷つかないように、俺をてるために、を閉ざしてくれていただけだったんだ」
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私は、音の向こうで静かに首を横に振った。
「全部がそうじゃないわよ、琢磨。……最初は確かに、あなたのプライドを尊したかった。でも途からは……私が何か見をにするたびに、あなたがまるで『全否定された』かのように被害者みたいな顔をして、嫌になるようになったからよ」
琢磨の息が止まる。
「覚えてる? あなたが酔して帰ってきたあの夜、『いつまでも君に助けてもらう子供みたいなのは嫌だ』って私に言い放ったこと。……私はね、あの言を聞いた夜、に決めたの。もう度と、自分からあなたの仕事にをすのはやめようって。その方が、あなたが楽になれるとったから」
琢磨の喉仏が、激しくした。
「……忘れてた。そんなこと言ったなんて……俺、完全に忘れてたよ……」
「私は、覚えていたわ」
その、たった文字の言葉のに、い音だけがのにり注いだ。 が吹き抜け、琢磨のスーツの袖がめくれがった。 その首のすぐ、腕の皮膚に、く引き攣れた古い術痕がうっすらと浮かびがっていた。 のあの事故の夜、私を突きばしてにはねられたに残った、砕骨折の傷跡だった。
私の線に気づいた琢磨が、かすかに震える声で呟いた。
「……あの頃の俺の気持ちまで、全部が嘘だったわけじゃないんだよ、咲」