みかん小説
本棚

"七年の指輪を外す夜" 第18話

彼が調子に乗ってアクセルを踏み込み、崖っぷちに向かって暴するたびに、そので『もしこれがれたら、どうするの?』と、静かにブレーキを踏み続けてくれたがいたからなのだ。

そして――そのは、自分の名や柄を文字たりとも残そうとはせず、ただ彼の誇りを守るためだけに、自らをさく折り畳み続けてくれていたのだ。

それからヶのことだった。 京駅に直結する超層ビルの国際会議において、神ホールディングス主催の『次世代サプライチェーン・デジタルトランスフォーメーション戦略説会』が催された。 招待状は、国内の力なIT企業や提携先にも広く発送されており、そのには当然のようにアスターリンクの名もあった。

相沢琢磨は、代理の役員をかせることなく、自らスーツを着て会へとを運んでいた。 彼が会の方の席に滑り込んだ、ステージの壇には、すでに何かの神グループの幹部たちが並んでいた。

そのに、彼女の姿があった。 派なドレスでも、着飾った装飾品でもない。 体に完璧にフィットした質なチャコールグレーのパンツスーツを纏い、首元にシンプルなパールのネックレスをつだけつけた神咲が、落ち着き払った佇まいでっていた。

広告

彼女の周囲には、名だたるメガバンクの役員や、総商社の幹部たちが自然と集まり、敬を込めた笑顔で言葉を交わしていた。

「神副部、素らしいスピードでの事業再編ですね」 「会も、ようやく頼もしい継者を現に戻すことができて、目を細めていらっしゃいましたよ」

周囲の鎮たちの態度は、突如として現れた創業の令嬢を持て囃すような卑屈なものではなかった。 彼らにとって、神咲という女性は、幼い頃からその性と実力を悉している、ごく自然な「未来のリーダー」そのものとして扱われていたのだ。

司会者のアナウンスが響く。

「――続きまして、サプライチェーン・デジタル基盤の抜本再構築計画につきまして、規事業発部副部・神咲よりご説申しげます」

咲が、壇の央へとみた。 客席の方に座る琢磨と、瞬だけ線が交錯した。 琢磨は、息を止めて彼女を見つめた。 だが、咲の涼やかな瞳は、彼のをまるで吹き抜けるのように滑らかに通り過ぎ、切の揺も見せることなく、元のプロンプターへと向けられた。

分にわたるプレゼンテーションので、彼女のから「アスターリンク」という単語がることは、ただの度もなかった。 過の傷や、かつて自分が関わったプロジェクトへの言及も切なかった。

広告

彼女が語ったのは、徹底に研ぎ澄まされた徹なビジネスの論理だけだった。 過剰なコスト構造の科術な切除、顧客継続率のデータ分析に基づいた契約モデルの刷、提携先企業とのアライアンスの再編、そして来期に向けた黒字化への確固たるロードマップ。

プレゼンテーションが終わると同に、会全体から惜しみない、本物の敬に満ちた拍が湧き起こった。 質疑応答を終え、勢の参加者たちが名刺交換のために彼女の周りへと押し寄せる。

の波がようやく途絶え、彼女が資料をまとめてステージをりようとしたその、琢磨はを決して、彼女のへと歩み寄った。

「……咲」

咲はを止め、振り返った。 彼女の胸元には、神ホールディングスの社員証が、然と提げられていた。 琢磨の喉が、引き攣るようにいた。

「……本当に、最初からずっと……神のだったんだな」

咲は、表を変えずに静かに答えた。

「ええ」 「どうして……どうして度も、俺に言ってくれなかったんだ?」

咲は、しだけ考えるように線を落とした、静かに言葉を紡いだ。

「最初は……あなたが、『神の力に助けられて成功したんだ』って、周囲からろ指を指されるような惨めないをしてほしくなかったからよ。……その次は、会社がきくなるにつれて、あなたが私から見されることそのものを、嫌がるようになったから。

そして、最は――」

彼女の澄んだ瞳が、まっすぐに琢磨を射抜いた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: