"七年の指輪を外す夜" 第13話
その隙から、取り残された琢磨の、狼狽しきった絶叫が漏れ聞こえた。
「咲! こんなに終わらせる必なんてないだろ!!」
私は、閉まりゆく扉の向こうの彼を、ただ静かに見つめ返した。
「私は、何も壊していないわよ。……最初から最まで、ただ、あなたのからていくだけ」
ガチャン、とい属音が響き、扉が完全に閉ざされた。 エレベーターが静かにを始める。 過ごした部の輪郭は、あっけなく私の界から消えっていった。
の夕暮れ。 都の等に広がる、鬱蒼としたに囲まれた広な本のに、私はっていた。 黒塗りのな扉の横には、に耐えて鈍いを放つ真鍮の表札――『神』の文字が刻まれている。
玄関の引き戸をけると、にはすでに母がっていた。 母は、スーツケースを抱えてち尽くす私の姿をじっと見つめると、琢磨のことも、婚約発表のことも、このの空のことも、何つ問い詰めてこなかった。 ただ、歩歩み寄り、私のやつれた頬に温かいのひらをそっと添えて、こう言ったのだ。
「……痩せたわね」
その、たった文字の温もりに触れた瞬、私の目の奥がカッとくなり、界が滲んだ。 奥の斎から、ゆっくりとした音がづいてきた。 現れたのは、としも変わらない、仕ての良いを羽織った父・神正だった。
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髪は増えていたが、そのの鋭さと、周囲の空気を圧するような威厳は、かつての記憶のままだった。
「……お父さん」
私が掠れた声で呼ぶと、父は腕を組んだまま、い、私の顔を値踏みするように見つめていた。 そして、ぶっきらぼうに告げた。
「おの部は、のまま片付けていない。……今は、もう休め」
その夜。 広なダイニングテーブルで、族だけの静かな夕が運ばれた、母がお茶を淹れ直しながら、静かに切りしてきた。
「咲。……これから、どうするつもりなの?」
私は、湯呑みからちるい湯気を見つめ、数秒のあいだ沈黙した。 、私は「神の名がなくても、自分の力だけでを切り拓ける」と証したいがために、自分のルーツのすべてをかなぐり捨ててをた。 けれど、すべてを失って戻ってきた今、痛烈に理解したのだ。私がどんな愚かな選択をしようとも、このと、培われてきた歴史は、決して消えったりはしなかったのだと。
私は顔をげ、父の目をまっすぐに見据えた。
「お父さん。……私、会社に戻りたい」
父が、持っていた箸を静かに置いた。
「理由は」 「誰かに仕返しをしたいからではありません。失恋して、く所がないから逃げ込んできたわけでもありません」
私は、膝ので両をく握りしめた。
「かつて、自分の未熟さと傲さのせいで放してしまったものを……もう度、今度は自分ので、自分ので掴み直したいんです」
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父の表は、しも緩まなかった。を見せることすらなく、徹な経営者の顔を保ったまま言った。
「神ホールディングスは、傷ついた鳥が羽を休めるための止まりではないぞ」 「分かっています」 「戻るというなら、特別扱いは切しない。社内規定の最底辺からいがってもらう」 「望むところです」 「……現、規事業発部に、ちげから連続で巨額の赤字を垂れ流している問題案件がある」
母が慌ててを挟んだ。 「あなた、ちょっと! 咲は戻ってきたばかりなのよ? そんな舟のような部署にいきなり――」 「黙っていなさい」 父は母の言葉をして遮ると、たい線を私に固定した。
「半だ。半以内にその事業の損益分岐点を見極め、単黒字化の筋をつけろ。……て直せるなら、相応のポストを用して残してやる。できなければ、神の娘だろうが何だろうが、この会社に席を用するつもりはない」
その過酷な条件を聞いた瞬、私の元から、わずフッと笑みがこぼれてしまった。
「……そう仰るとっていました。受けてちます」
翌週の曜。 私は、神ホールディングスの本社ビルのエントランスをくぐり、規事業発部へと配属された。 社に向けたニュースリリースは切さず、社内においても、私が創業・神正会の女であるという事実は、ごく部の役員を除いて完全に伏せられた。