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"七年の指輪を外す夜" 第10話

私が特別な才だったわけではない。 代の頃から、父の厳しい教育方針によって、神ホールディングスの傘にある精密器メーカーや投資会社の経営会議に同席させられ、百戦錬磨の役員たちが交わす議論の空気を肌で吸ってきただけだ。 学では経営戦略と国際財務を専攻し、卒業の丸は、神グループのベンチャー投資部でシニアアナリストたちに混ざって過酷なデューデリジェンスの実務を叩き込まれていた。 事業のどこに致命なリスクが潜んでいるか、数字のどの部分に経営者の甘い願望が紛れ込んでいるかを見抜くことなど、私にとっては呼吸をするのと同じくらい当たりの技術だったのだ。

最初の頃、私は完成した計画を見つめながら、起きてきた琢磨に直接アドバイスを送っていた。

『琢磨、こののキャッシュフロー予測、あまりにも楽観すぎるよ。主力製品の仕入れ先との基本契約期は更なのに、どうしても原材料費が固定される提で粗利を計算しているの? もし相が途で値げを求してきたり、供を止められたりしたら、この社だけで売の割が吹きんで、会社はヶで債務超過に陥るよ』

当の琢磨は、私の言葉に素直にを傾けていた。

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目を丸くして『咲って、どうしてそんなことまで分かるんだ? すげえな』とし、私が指摘したリスク因をノートにき留めては、必に事業計画を修正していたものだ。

けれど。 会社がシリーズA、シリーズBと資調達をね、部から証券会社のCFOが招聘され、華々しい経歴を持つ経営企画チームが組織されるにつれて、私の居所はしずつ、確実に失われていった。

決定なきっかけとなったのは、のある夜のことだった。 夜に酔して帰宅した琢磨が、リビングで私の淹れたウコン茶を受け取りながら、吐き捨てるように漏らした言だった。

『……咲さ。俺、いつまでも君にから目線で助けてもらう、頼りない子どものままでいるのは、もう嫌なんだよね。……俺は、この会社のCEOなんだよ』

そのの彼の、暗く濁った目のを、私は今でも忘れることができない。 彼は、私が正しい指摘をすることそのものに、自分自の男としての自尊を傷つけられていたのだ。 私はその言葉をく胸に刻み込んだ。 それ以来、彼から直接見を求められない限り、私の方からアスターリンクの事業内容や財務の数字についてを挟むことは、切やめたのだった。

私はそれを、成していく彼に対する「最の尊」であり、「信じて見守る」なのだと信じ込んでいた。

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まさか、その私の沈黙が、いつのにか彼の目には「ビジネスのスピードについてこれない、何も分からない世らずな女」として映るようになっていたなどとは、にもっていなかったのだ。

目の午。 私は、部に残していた最の私物を回収するため、もう度だけ目黒のマンションへと向かった。 すべての部を雑巾で拭き清め、自分の荷物を詰めた最の段ボール箱を玄関のへと運びした、まさにその瞬だった。

背で、チーンという械音をててエレベーターの扉がいた。

振り返ると、そこには相沢琢磨がっていた。 この、ほとんどもしていないのだろう。ネクタイはきく歪み、仕ての良いはずのシャツの胸元には細かな皺が寄り、目のには濃い隈が黒々と張り付いていた。

彼が、私の元に積まれたつの段ボール箱と、壁際にてかけられた型のスーツケースを認めた瞬、その顔からサーッと血の気が引いていくのが見て取れた。

「……咲。何してるんだよ」

掠れた、湿った声だった。

「引っ越しよ」 「引っ越しって……どこへくんだよ」 「自分のに、帰るの」

琢磨は、エレベーターの「」ボタンを押したまま、信じられないものを見るような目で私を見つめていた。その指先が、刻みに震えている。

「……先に、話そう。部に入ってくれ」

私は腕計に線を落とした。条礼司がで迎えに来るまで、まだ分以のがあった。

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