"七年の指輪を外す夜" 第9話
夜のを回った頃、静まり返ったリビングに、スマートフォンのバイブレーションがく鳴り響いた。 画面を見ると、琢磨からのメッセージだった。
『先に帰ったのか?』
その分、再び着信音が鳴る。
『今のこと、咲が嫌ないをしたのは分かってる』
さらに分、午くになって届いた最の通。
『、ちゃんと話そう』
私は、そのどれにも返信をしなかった。 既読をつけ、ただ画面を伏せた。 りに任せて彼を罵倒したかったわけでも、無することで彼を困らせたかったわけでもない。 ただ、すべてが終わったで、夜の暗ので交わされるような言い訳や妥協の言葉にを傾ける必性が、私ののから完全に消滅していたからだ。
翌朝、午。 私は丸の内のオフィスにある、神が半世紀にわたって顧問契約を結んでいる法律事務所の扉を叩いた。
応接で迎えてくれたのは、髪の混じったベテラン弁護士の内だった。幼い頃から私の成をる内は、突然で訪ねてきた私の姿を見るなり、瞬だけ驚いたように目を見張ったが、プロとして余計な詮索の言葉は切にしなかった。 テーブルを挟んで向かいい、私がに事実関係を告げると、内は静かに頷き、元の黄いリーガルパッドに万をらせ始めた。
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「……承いたしました。神咲様ご個の名義で理すべき項目を、つずつ精査いたしましょう」
内が淡々ときしていったリストは、岐にわたっていた。 目黒の賃貸マンションの賃貸借契約の解除および名義変更。 同居期に折半で購入した財具の所権の放棄。 アスターリンクの創業期から現に至るまで、私が「部のアドバイザー」という曖昧なのまま、無償で同社に提供し続けてきた成果物や業務協力の契約関係の解消。 そして――まだ正式な調印には至っていないものの、私個の脈を通じてアスターリンクへの導入がみかけていた、製造業社との規商談案件の扱い。
内が、鏡の奥の鋭い瞳を私に向けた。
「咲様。すでに成している過の資契約や、アスターリンク社が神グループの関連会社から受けている接な取引について、何らかの法な差し止めや資の引き揚げ(ディスインベストメント)をご希望されますか? 神会のお名をせば、即座にかせるレバレッジはいくらでもございますが」
私は、迷うことなく首を横に振った。
「いいえ、内先。すでに成している正規の契約を覆すような真似は、切しないでください。投資たちに連絡を入れて、アスターリンクの株を引き揚げさせるようなこともしません」
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「よろしいのですか? 相方の背信為はですが」 「ええ。そんなことをすれば、それは単なる『清算』ではなく、卑劣な『復讐』になってしまいます。私がしたいのは、報復ではありません。……私がこれから先、あののために善で続けてあげるつもりだったことのすべてを、ただ綺麗さっぱりやめること。それだけです」
内はく息を吐きし、微かに元を緩めた。
「分かりました。契約済みの案件は法に則ってそのまま継続。未契約の案件については、相先企業に対して『神咲個としての推薦・紹介を取り消す』旨の通を速やかにします。先方がアスターリンク社と単独で契約を結ぶかどうかは、先方の純粋なビジネス判断に委ねる、ということでよろしいですね」 「はい。私はもう、度とあの会社の紹介者にはなりません」 「承いたしました。……それから、相沢社が持ち込んでいた事業計画や財務諸表のチェックについても、今は切関与されない、ということで」
「……ええ」
その返事をした瞬、私の指先が、膝のでわずかに張った。 琢磨は、おそらくぬまでることはないだろう。 この、私がどれほどく、どれほど膨なを費やして、彼の会社の事業計画と財務モデルを裏から支え続けていたのかを。
創業目。 彼が連連夜オフィスに泊まり込み、眠休できげた事業計画のドラフトを抱えて帰宅し、リビングのデスクに突っ伏してのように眠り込んでしまうと、私は彼が寝息をてている隙に、そのノートパソコンをそっと元に引き寄せていた。