"七年の指輪を外す夜" 第1話
相沢琢磨が婚約を発表したその瞬、私は京・丸の内にあるホテルの宴会で、壁際に並べられた最列の丸テーブルの、最も端の子に腰をろしていた。
ステージのにつ彼との物理な距は、メートルもれていなかった。 井のいドーム状の空には、巨なクリスタルシャンデリアから無質なまでににい、青い烈な照が惜しみなく注がれており、会の隅、毛のい絨毯の細かな織り目から、列席者の磨き抜かれた革靴の爪先、磨きげられたワイングラスの縁に至るまで、の片すら許さないほど徹に照らししていた。
その夜の催しは、株式会社アスターリンクの周記祝賀会と、今の成を占う事業戦略説会を兼ねたがかりなイベントだった。 半のは、関投資やベンチャーキャピタル、経済の記者たちに向けた厳格なプレゼンテーションがわれ、半は取引先や支援者を招いた華やかなレセプションへと移る構成になっていた。
琢磨は、夕方に会入りしてからというもの、瞬の隙もないほど忙しそうにき回っていた。紺のスーツにを包み、胸元にシルバーのポケットチーフを覗かせた彼の周りには、常に名刺をにした財界関係者やメディアのが何もの輪を作っていた。
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私と彼の目がうことは、会してからただの度もなかった。 だが、演のほど、私のスマートフォンには彼から通だけのいメッセージが届いていた。
『先に帰らないで。すべてが終わったら、事な話がある』
受信トレイに浮かぶその簡潔な文字列を見つめた、私のは、無識のうちにの薬指へと伸びていた。 指先が触れたのは、何の飾りもない、幅の狭いプラチナの指輪だった。 それは、宝で恭しく桐箱に収められて売られているような、正式な婚約指輪などではなかった。
今から、アスターリンクがシリーズBの資調達を辛うじて完させ、ようやく琢磨が「来の全社員の料を本当に払えるだろうか」と胃を痛め、眠れぬ夜を過ごす活から抜けしたばかりの期のことだ。 あの頃の私たちは、目黒の架からしれた、築数の古い平方メートルほどのさな賃貸マンションで暮らしていた。 調達完のプレスリリースがたその夜、私たちは所のコンビニで買ってきたロング缶のビールを本、さなガラステーブルのに並べて乾杯した。特別なお祝いのディナーにくおも気力もなく、ただで缶から直接ビールをんだ。
半分ほどみ干したところで、琢磨がおもむろにちがり、脱ぎ散らかしていたジャケットのポケットからさな正方形の箱を取りした。
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差しされた箱をけると、そこには夜塗料のように控えめにる、驚くほど細く華奢なリングが横たわっていた。
「会社がもうし落ち着いたら、ちゃんと君のご両親にも挨拶にく。その、正式に籍を入れよう」
彼が真剣な面持ちでそう言った、私はわず笑みをこぼしてしまったのを覚えている。
「それ、プロポーズのつもり?」 「……今は、これが精杯なんだ」
バツが悪そうに照れ笑いを浮かべながら、彼は震える指先で私のを取り、その細い輪を薬指へと滑り込ませた。 冗談めかした声音とは裏腹に、そのの彼の瞳は、会社を設する際、で最も切な契約に実印を押した瞬と同じくらい、張り詰めた真剣さに満ちていた。
「咲、もうしだけ待ってて。俺、必ず今よりずっときな男になって、君を世界で番幸せにするから」
私はその言葉を、片の疑いもなく信じていた。 だからこそ、今夜「事な話がある」というメッセージを受け取った、私は胸の奥をかすかにねさせながら、ようやくあのの夜の続きが聞けるのかもしれないと、本気でそうい込んでいたのだ。
壇の司会者が、華やかな笑みを浮かべてマイクの防を握り直すまでは。
「――皆様、本の公式プログラムの最に、相沢社より皆様へ、もうつ、変ばしい個なおらせがございます」