"作文の余白に書かれた秘密" 第14話
震える原稿用
最初にった男子徒は、サッカー部の輝だった。
彼はガタガタと音をててパイプ子からちがると、原稿用を両で持ちげた。
指先が細かく震え、がかすかに擦れる音が響く。
彼は度だけろを振り返り、母親の顔を見た。
「……母さん」
輝の声はかすれていた。
喉元に何かが詰まっているようだった。
「俺、駅のトイレで……塾にく、いつも吐いてました」
教のの空気が、ぴしりと凍りついた。
ろにっていた輝の母親が、息を呑んでハンドバッグを取り落としそうになった。
「格しろって言われるたびに、お腹が痛くて、息ができなくなって……でも、母さんがパート代削って謝払ってくれてるのってたから、言えませんでした。……俺、もう特クラス、きたくないです」
輝は原稿用をぎゅっと胸元に押し当て、くをげた。
母親は元をで覆ったまま、ち尽くしていた。
誰として声をさなかった。
笑う者も、からかう者もいない。
ただ、のが自分の内臓を切りいて見せたような痛切なみが、教全体を満たしていた。
「次、井さん」
先が淡々と次の名を呼んだ。
美緒が静かにちがった。
彼女は原稿用を見つめた、ゆっくりと体を回転させ、教の方につ自分の母親と線をわせた。
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母親は、いつものように控えめで、し疲れた笑顔を浮かべようとしていた。
だが、美緒のからた言葉は、その笑顔を瞬で剥ぎ取った。
「お母さん」
美緒の声は澄んでいたが、氷のように研ぎ澄まされていた。
「お父さんがてった夜から、お母さんが私ので度も泣かないのが、ずっと怖かった」
母親の表が直した。
「私が音を吐いたら、お母さんが壊れちゃうとって、ずっといい子のふりをしてた。テストでいい点を取って、笑って、伝いをして……でも、本当は毎にたかった。お母さんのためだけにきてるのが、苦しくてたまらなかった」
美緒の目から、粒の涙がこぼれ落ちた。
けれど、彼女は線を逸らさなかった。
母親の瞳を、まっすぐに見据えていた。
「もう、私のでしないで。……私を、お母さんのきる理由にしないで」
母親の膝が折れそうになり、隣にいた別の保護者がとっさにその肩を支えた。
美緒は礼することもなく、ただ静かに子に座り直した。
その横顔には、これまでの怯えや笑は消え、ただの独したとしての覚悟だけが残っていた。
そして、席番号が悠斗に回ってきた。
「……次、佐々くん」
悠斗はすぐにはたなかった。
数秒の沈黙の、彼は机のの原稿用を力任せに握り潰した。
くしゃくしゃになったの塊を握りしめたまま、彼はゆっくりとちがった。
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彼はろを向かなかった。
教卓のにつ先の顔も見なかった。
ただ、自分の元のリノリウムのを睨みつけ、く、濁った声を絞りした。
「毎晩、玄関のドアが閉まる音が嫌いだった」
教の最列で、スーツ姿の父親がぴくりと眉をかした。
「帰ってくる音が聞こえるたびに、部の気を消して、息を殺してた。……どっちが俺を引き取るかで揉めてる声も、全部聞こえてたよ」
悠斗の肩が激しくした。
握りしめた拳の隙から、くしゃくしゃの原稿用がく覗いている。
「親父、俺のこと、がかかる荷物だとってるだろ。母さんもそうだ。俺がいなくなれば、ともすっきり婚できるのにな、って……毎ってた」
悠斗はそこで初めて、ゆっくりと顔をげた。
そして、ろを振り返った。
その目は真っ赤に充血していたが、涙は流れていなかった。
父親を、まるで敵を見据えるようないで射抜いていた。
「でも、番嫌いだったのは……イヤホンをつけて、音量で音楽を流して、何も聞こえないふりをしてた自分だ」
悠斗の声が、教に響き渡った。
「俺は、荷物じゃない。勝に産んで、勝にらないもの扱いするなよ。……俺は、俺のできていくから、で勝にどっかけよ!」
父親の顔から、完全に血の気が引いていた。
周囲の保護者たちも、あまりの言葉の鋭さに息を呑み、線を泳がせていた。
だが、悠斗はもう誰の顔も窺っていなかった。
彼は原稿用を机のに放りすと、肩で息をしながら、ドサリと子に腰をろした。
その姿は、かつて森先の言葉を借りての傷を抉っていた卑怯な代者ではなかった。
傷つき、血を流しながらも、自分の痛みを自分の言葉として世界に叩きつけた、のだった。
先は、静かにチョークを指ので転がした。
そして、名簿の最のに目を落とした。
「最。……森さん」
私の番だった。