"作文の余白に書かれた秘密" 第8話
靴箱のい片
先は驚いたでもなく、ただ静かに私を見つめていた。
「……也」
名を呼ばれた瞬、私の目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
声をして泣くことすらできなかった。喉が引き攣れ、ただたい息が漏れる。
先は何も言わず、私の腕を引いて、すぐ隣の無の指導へ入った。
カチリと鍵がかけられる音が、静まり返った部に響いた。
パイプ子に座らされても、私の体の震えは止まらなかった。
先は自分のデスクから、冊の古い学ノートを取りした。
森先が使っていた、緑の教案ノートだった。
表の端が擦り切れ、無数の付箋が貼られている。
先はそのノートを私のに置いた。
「全部、聞いていたのね」
私はさく頷くのが精杯だった。
「先は……私たちのせいで……」
「徒だけのせいじゃない」
先の声は静かだったが、たさは消えていた。
「断れなかった森先のさでもあった。教員と徒のには、絶対に越えてはいけない境界線が必なの。それを曖昧にして、自分が神様になれると錯覚した結果が、これよ」
先はノートの最のページをいた。
そこには、几帳面だった森先の文字とは似ても似つかない、乱れた跡が残されていた。
ペンの先が何度もを突き破り、黒いインクが滲んでいる。
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『もう何もけない』
『私は教師であって、彼らの母親ではない』
それだけが、震える線で殴りきされていた。
「あなたたちが画面の向こうに作りしていたものは何?」
先の線が、私の胸の奥を覗き込むように向けられた。
「森先の言葉を真似して、都のいい言葉を配り歩いて……それは彼女へのじゃないわ。ただ、自分の言いたいことを言わせるための、便利な操り形を作っていただけよ」
言も言い返せなかった。
胸の奥を刃物でえぐられるよりも痛かった。
悠斗が叫んでいた「森先ならこう言った」という言葉のすべてが、ただの傲な押し付けだったのだといらされた。
「の保護者会で、国語の公授業をうわ」
先はノートを閉じた。
「課題は『誰にも言えなかった』。森先が、あなたたちのために最に残していった課題よ」
「……先が?」
「ええ。本来なら、こんな危険な課題は止にするべきよ。でも、私はあえてこれをやります」
先はちがり、私を見ろした。
「偽物の先に言わせるんじゃない。あなたたち自の名で、自分の言葉を話しなさい。それができないなら、あなたたちは、誰かのに隠れてを傷つけ続けるだけよ」
指導をたとき、は完全に夜のに沈んでいた。
い取りで昇へ向かい、自分の靴箱の扉をける。
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その瞬、指先にいの触が触れた。
靴箱の隅に、細く折り畳まれた枚のメモ用が挟まっていた。
くと、そこには赤ボールペンで、震えるような文字がかれていた。
『悠斗へ。
親父のことは、俺が自分で決める。
おが先のふりをしていたこと、絶対に許さない。
健太』
私の臓が凍りついた。
健太は気づいていたのだ。
あの言葉をいたのが、森先ではなく悠斗だったということに。
そのとき、制のポケットのでスマートフォンがく震えた。
のグループチャットだった。
通をいた瞬、私は息を呑んだ。
悠斗からの枚の写真が貼られていた。
暗い自分の部の机のに、何枚ものさな便箋が並べられている。
すべてに、赤ペンで文字がびっしりとき込まれていた。
続いて、悠斗からのメッセージが届いた。
『システムが消されたなら、でやる。
の朝、全員の駄箱に森先の言葉を入れておく。
俺たちは違ってない。
先は、まだこの教にいるんだ。』
「悠斗……!」
夜の昇で、私の叫びは誰にも届かず、たいコンクリートの壁に虚しく吸い込まれていった。
怪物はんでいなかった。
それどころか、肉体を奪われたことで、より鋭く残酷な毒となって、クラスの全員の元へと忍び寄っていた。