"作文の余白に書かれた秘密" 第5話
午の閲覧履歴
翌朝、私は始業の図の奥、誰も来ない郷資料の棚のにを呼びした。
窓から差し込むのはく、埃の粒だけが静かに浮いていた。
美緒はブレザーのポケットに両を突っ込んだまま、壁に背を預けている。
悠斗はしれたスツールに腰掛け、嫌そうにつま先を見つめていた。
「ルールを決めたいの」
私はノートパソコンの画面を伏せたまま、に言った。
「これ以、庭のことに踏み込むのはやめよう。部活の記録とか、漢字のテストの励ましだけに留める。それなら、誰も傷つかない」
美緒がくを鳴らした。
「傷つかない? 也、まだそんなこと言ってるの」
彼女のややかな線が私を射抜いた。
「千里の顔見たでしょ。あの子、朝から誰とも目をわせないよ。母親に虐待されてるとか、変な噂までち始めてる。偽物の先ごっこなんて、最初から悪趣だったのよ。今すぐあの共データ、全部消しなよ」
「消したら、どうなるの」
く乾いた声で、悠斗がを挟んだ。
彼は顔をげ、美緒を睨みつけた。
「森先がいなくなってから、お、誰かに本音を話したことあるか? にか? あいつに『お母さんが毎泣いてて息が苦しい』って言えるのかよ」
美緒の唇がさく震えた。彼女の庭の事に、悠斗が触れようとしたからだ。
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「悠斗、やめて」
私が遮ると、悠斗は乱暴にちがった。
「の言う通りに綺麗な言葉だけ並べて、何が国語だよ。先は、そういう嘘を見抜くだっただろ。俺は加減なんかしない」
悠斗はそれだけ言い捨てて、図书の引き戸を荒々しくけててった。
残された美緒は、俯いたままかなかった。
「……嫌い」
掠れた声だった。
「先も、悠斗も。……勝にいなくなって、勝に神様みたいに祀りげて、本当に気持ち悪い」
そう吐き捨てながらも、美緒の指先は自分のスカートのポケットをく握りしめていた。
そのの夜、付が変わった過ぎ。
私は自の机で、共ドキュメントのアクセスログをいていた。
徒たちの作文データが並ぶ画面の端に、リアルタイムの閲覧記録がさく表示される。
誰がいつ、どのページをいたかの履歴だった。
ピンクのアイコン――美緒のアカウントだった。
彼女は昼、あれほど激しく「消せ」と拒絶していた。
けれどログによれば、彼女は昨夜も、そのの夜も、夜零を過ぎると決まって自分の作文のページを何度も再読み込みしていた。
美緒が提していた作文のタイトルは『族の卓』。
は、どこにでもある平凡な休の様子を装った、無難でい文章だった。
彼女は待っていたのだ。
どれほど否定しても、どれほど罵倒しても、その無難な嘘の裏側を誰かに見破ってほしくて、画面の向こうの「先」
をで待ち続けていた。
その痛々しい矛盾に、私の喉の奥がく軋んだ。
私たちは誰も、先の代わりになどなれなかった。
ただ、自分が救われたいだけの霊を、交代で呼びしているだけだった。
画面がふっと滅した。
緑のアイコンが点灯する。悠斗だった。
彼がドキュメントの最段に、しく切り取ってきた徒の文章を貼り付けたのが見えた。