"作文の余白に書かれた秘密" 第1話
画面の赤い文字
画面のに、見慣れた細い赤文字が浮かんでいた。
『ここ、もう歩だけ踏み込めるはず。』
森先の癖だった。
文章の論理が破綻しているわけでも、誤字があるわけでもない。ただ、いた本が番触れたくない核のでを止めているとき、先は決まってそのを添えた。
私はスマートフォンの画面を見つめたまま、指先を止めていた。
学組の担任で国語を受け持っていた森先が、「の都」で突然学に来なくなってから週が過ぎていた。
職員朝会で教が告げた理由は曖昧で、保護者宛てのプリントにはただ「休職に入ります。復帰期は未定です」とだけ印刷されていた。
代役としてやってきたのは、代半の先だった。
髪をつにきっちり束ね、黒板の字は定規で引いたように真っ直ぐ。
彼女は初の授業で言った。
「国語は、言葉のルールを学ぶ教科です。自分の気持ちを勝に盛り込む所ではありません」
森先とは真逆だった。
森先は、提された作文の余が真っ赤になるほどコメントをくだった。庭のこと、放課の友達関係、誰にも言えない居所のなさを、徒たちは作文という実を使って先に預けていた。
それが急に途絶えた教は、底の抜けたバケツのようにどこか頼りなく乾いていた。
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だから、今朝オンライン課題提システムをいたとき、クラスの誰もが同じ錯覚を抱いた。
休職のはずの先が、自宅のパソコンからこっそり徒たちの作文を読んでくれているのだと。
「……ねえ、これ見て」
目の休み、の席の女子が振り返った。
画面には、やはり同じフォントの赤文字で『比喩が丁寧になりましたね』とくかれていた。
「先、やっぱり見てくれてるんだよね。学は休職って言ってるけど、私たちのこと放っておけないんだよ」
彼女はしたように笑った。
教のあちこちで、同じようなささやきが広がっていた。
先はいる。画面の向こうに、ちゃんとまだいてくれている。
けれどその空気は、昼休みのホームルームで変した。
窓際の席で、千里がスマートフォンを握りしめたまま固まっていた。
肩が細かく震えている。
声をかけようとづいた美緒が、千里の顔を見て息を呑んだ。血の気が完全に引いていた。
「千里、どうしたの?」
返事はない。
千里のから滑り落ちそうになったスマホを、私は横からのぞき込んだ。
提された作文のタイトルは『の通学』。
ごく普通の、季節の景を描いた百字の文章だった。
その番に、赤い文字がだけ追加されていた。
『昨、お弁当箱をお母さんに返せたでしょう? なら、もう話したくないふりをしなくていいのよ。
』
私は喉の奥が詰まるような覚を覚えた。
千里の母親が先週から体調を崩し、がを利いていないことは、私を含めたごく部のしからない。
しかも千里が昨夜、ぶりに洗った弁当箱を台所に置いたことなど、作文には文字もかれていなかった。
誰にも話していないはずの昨の来事が、なぜ、休職しているはずの森先の言葉としてき込まれているのか。
「……誰?」
千里の声は、教のざわめきにかき消されそうなほどかすれていた。
「これ、誰がいたの……?」
その問いに答えられる者は、教の表面にはもいなかった。