"失踪した兄へ父が送り続けた金" 第15話
と言って、ち会いの、庭の片隅で静かに煙を吸っていた。
実の売却益から諸経費と父の残債を引いた残りは、およそ千百万円。 修平が「等分しよう」と申したが、兄はあっさりと断った。
「俺にはがある。森田の親父さんが遺してくれただ。おたちで分けろ。修平はそれで、これからの自分の活をて直せ」
「でも、兄貴……あの振込のおだって……」
「あれは、もう使った」
兄は煙を空へ吐きしながら、しだけ悪戯っぽく元を緩めた。
「のしいアライメントテスターと、古の軽トラを買ったよ。ずっと欲しかった材だ。……親父のだとうと胸糞悪かったが、もう俺のだ。しっかり稼いで元を取ってやる」
その言葉に、修平もようやくさく笑った。
引き渡しの続きが終わり、業者が鍵を預かって引き揚げていく。 私たちはで、扉のに並んでった。
来週にはが入り、このは跡形もなく取り壊されるという。 庭の百(さるすべり)のも、私たちが背比べをした柱の傷も、すべてのコンクリートのとなって消える。
「じゃあな」
兄は館きの幹線に乗るため、荻窪の駅へ向かって歩きした。 引き止める言葉は、修平からも私からもなかった。 緒に暮らすことも、頻繁に連絡を取りうこともないだろう。
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私たちはもう、それぞれの所でになりすぎていた。
けれど、角を曲がる直、兄は度だけち止まり、振り返って軽くを挙げた。 その背は、に鞄を抱えてっていったとは違い、どこかれやかで、確かなみを持っていた。
「……っちゃったね」
私が呟くと、隣にいた修平が、く息を吸い込んだ。
「うん。でも……きててよかったよ」
修平の横顔から、あの異様な焦燥と怯えはすっかり消えていた。
それから、が過ぎた。
実の跡には、真しい棟の建売宅が建ち、別の族の笑い声が響いている。 修平は杉並をて、埼玉のさな運送会社で事務員として働き始めた。 派さはないが、毎週末には自炊をして、穏やかに暮らしているとLINEで報告があった。
の半ば、肌寒さをじるようになった曜の朝。 私のマンションのインターホンが鳴った。
宅配便の配達員から受け取ったのは、ずっしりといダンボール箱だった。 差の欄には、太いマジックでこうかれていた。
『田県館 川也』
ガムテープを剥がして箱をけると、部いっぱいに甘酸っぱい、瑞々しいりが広がった。
箱のに敷き詰められた聞のから、真っ赤に熟れたぶりのリンゴが、何個も顔を覗かせていた。 形はし揃いで、皮にさな傷がついているものもある。
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だが、どれも太陽のを浴びて、力く張っていた。
リンゴの隙に、の伝票の切れ端が枚だけ挟まっていた。 械油の染みが指紋の形についている、さな片。 そこには、兄の無骨な字で、たっただけかれていた。
『今、所の農からたくさんもらった。いきれないから送る。也』
私はわず吹きし、それから、目がくなるのをじた。
も、況報告もない。 相変わらず、器用で、言葉のりないだ。 けれど、そこには確かに、ので兄がにをつけてきている温もりが宿っていた。
私はスマートフォンを取りし、メッセージアプリをいた。 そして、修平のトーク画面に、リンゴの箱の写真を貼り付けて送信した。
『お兄ちゃんからリンゴが届いたよ。たくさんあるから、持っていこうか?』
送信して、わずか数秒。 画面に、い返信が届いた。
『つ、取っておいて』
画面を見つめながら、私はの柔らかなので、さく微笑んだ。
、誰も呼ぶことのできなかった言葉。 凍りついていた川のは、このつのリンゴのように、静かに、けれど確かに、しい季節のへと転がり始めていた。