"廃墟旅館の双子と初恋の再会" 第9話
丈夫だから、声を落として」 俺は居の隣にある、両親の寝へと続く襖をそっと指さした。 「結菜ちゃんと菜ちゃんはね、俺のお袋たちと緒に、隣の部でぐっすり眠ってるよ」
絵里はハッと息を呑み、胸を撫でろした。だが、すぐに恐縮したようにを縮こまらせた。 「そ、そうだ……おじさんとおばさんに、挨拶しないと……!」
「いいから、いいから。とも、仕事で疲れてもうとっくに熟してるよ。挨拶はの朝でいい」 俺は絵里を台所の子へと促し、温かい麦茶の湯呑みを渡した。 「絵里ちゃんをゆっくり休ませてあげようとってさ、お袋が『子どもたちを引き取って寝かしつけるよ』って言ってくれたんだ。でも、母親がいないって分かるとになっちゃったみたいでさ、ともなかなか寝てくれなくて変だったんだぞ。……うちの親父もお袋も、千尋と双子を両脇に抱えて、全員力尽きて雑魚寝してるよ」
絵里は湯呑みを両でぎゅっと包み込み、湯気を見つめながら、消え入りそうな声でをげた。 「……ごめんね。本当に……迷惑ばかりかけて……」
「迷惑なんかじゃないよ」 俺は向かいの席に腰をろし、苦笑いを浮かべた。 「うちの千尋はさ、半までずっと京の狭いアパートで育ててたんだ。番がかかってい盛りの頃に、実の両親には孫の顔をほとんど見せてやれなかったからさ。
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お袋も親父も、久しぶりにさな子どもの世話ができて、めちゃくちゃ楽しそうだったよ」
絵里の瞳が、しだけ見かれた。 「……虎次郎君も、京にいたんだね」 「ああ。をてからずっとあっちにいたよ。……ってことは、絵里ちゃんとも、もしかしたらどこかの角ですれ違ってたかもしれないな」
できる限り努めてるい調子で振るってみたが、絵里の表は、暗いを落としたままれることはなかった。
絵里がこの町をったのは、俺たちが歳、学を卒業する直のことだった。 原因は、絵里の母親の貞だった。 当、町れのドライブインのようなで働いていた絵里の母親が、そこに入りしていた客の男と恋仲になり、まだ学だった絵里と夫を捨てて、着の着のままで駆け落ちしてしまったのだ。
温泉というものは、良くも悪くも関係の距が異常なほどい。 壁にあり障子に目ありの閉鎖な狭い町ので、その醜聞は瞬くに広まり、尾ひれがついて民たちの格好の噂の種となった。 悪気のない善の顔をした所のたちが、端で絵里を見かけるたびに、 『絵里ちゃん、にねえ』 『あんな母親のことなんて、く忘れなさい』 と、無神経な同の言葉を投げつけ、らずらずのうちに女のをく追い詰めていったのだ。
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耐えかねた絵里は、やがて学へけなくなり、自宅の部に引きこもってしまった。 俺たち仲の良かった同級が何度を届けにっても、玄関のドアがくことは度となかった。 この町にいる限り、娘のは壊れてしまう――そう判断した絵里の父親は、仕事を辞めて夜逃げ同然に引っ越しを決断し、絵里は俺たちのから突然姿を消してしまったのだ。
そして――それこそが、俺がを卒業すると同に、この町を憎み、びした最の理由だった。 俺の初恋のだった絵里を、無神経な言葉と好奇の線で追いした、この息苦しい町がの底から嫌いだったのだ。 絵里には、ここではないどこかい所で、誰にも邪魔されずに幸せになっていてほしいと、ずっと祈り続けていた。 だが――俺のその祈りは、無にも届いていなかったのだ。
「……絵里ちゃん。体……何があったんだ?」
俺の問いかけに、絵里は湯呑みの縁を指先でなぞりながら、ポツリ、ポツリと、たいをいた。
「……あのね。京へ引っ越してからも、私、普通の教には通えなかったの。学を卒業するまで、ずっと保健登だった」 絵里の声は、夜のに吸い込まれそうなほど静かだった。 「番好きで、信じていたお母さんに簡単に捨てられちゃったから……誰かにをいて、仲良くなって、また裏切られるのが怖くてたまらなかったの。