"廃墟旅館の双子と初恋の再会" 第4話
「パパ、く! こっちだよー!」
千尋は枯の庭の周りを、のようにくるくると駆け回っていた。 「おいおい、千尋、あんまりると転ぶぞ! ……そろそろおに戻って、おやつでもべないか? パパ、もうが棒のようだよ……」 「やだ! まだおがいい! もっとあそぶの!」
元気にね回る千尋の姿を見つめながら、俺は庭の隅にある苔むした灯籠に腰をろし、く息を吐きした。 体をかして元気に笑ってくれるのは、親として何よりもばしいことだった。だが、を過ぎた男の体力には限界がある。
この実の敷は、側に客や浴を備えた本館があり、その裏に渡り廊で繋がる形で、族が暮らす平の居が建っていた。 庭はそのつの建物のに広がる広な本庭園で、池や築、びが美しく配置されていた。子どもの頃の俺にとっても、この庭は絶好の冒険の台であり、隠れだった。 今、自分の娘が同じようにこの庭を駆け回っている姿を見るのは、どこか議で、奇妙な慨を抱かせるものがあった。
だが――俺が子どもの頃と現とでは、決定な、そしてあまりにも残酷な違いがあった。
界の先にそびえつ、本館の巨な造階建ての建物。 それが、完全に『廃墟』と化していることだった。
俺が歳の、実の旅館は静かに息を引き取った。
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負債が膨らみ、営業を止せざるを得なくなったのだ。 潰れたのは、うちの実だけではなかった。バブル崩壊以の期な況と、旅スタイルの変化。アクセスの悪い奥のこの温泉自体が急速に寂れ、観客のが途絶え、通りに軒を連ねていた産物や射、旅館が、ドミノ倒しのように次々と廃業していったのだ。
俺の学代の同級の父親が経営していた、客数百を超える域最の老舗グランドホテルでさえ、うちの旅館よりもずっとくに巨額の負債を抱えて倒産していた。 この町には、もはや若者が働けるような職などつも残されていない。 父と母が毎朝に乗って勤しているのも、ここからを分以った幹線沿いにある、全国チェーンのビジネスホテルでの清掃とベッドメイクのアルバイトだった。
かつては数の仲居や板を束ねる経営者だった両親が、還暦を過ぎてからのホテルのシーツを替え、客のゴミを回収して銭を稼いでいる。 番変だった期に、実の危から目を背け、京で自分の活にかまけて寄り添うことすらしなかった俺は、紛れもない親孝者以の何者でもなかった。
そんな苦い悔のに胸を締めつけられていた、そのだった。
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「――よし! つぎは、たんけんたい、しよーっと!」
唐突にねがった千尋の声に、俺はハッとに返った。 顔をげると、千尋は庭の奥、かつて厨や裏方通用として使われていた本館の勝のにっていた。 腐して蝶番がれ、わずかに隙が空いていたたい製ドアに、千尋がさなをかけていた。
「あ……おい、千尋! 待て! は危ないから入っちゃ駄目だ!」
俺は灯籠からび起き、声で静止しようとした。 だが、いに耽っていた俺の初は完全に遅れてしまった。千尋は俺の制止の声を背に受けながら、まるで秘密基を見つけた探検隊のように、嬉々としてその暗い隙のへとすり抜けていってしまったのだ。
「千尋――っ!」
俺は慌てて勝へと駆け寄った。 踏み板がれかかった階段をびがり、たいがをけている廃墟の内部へと、転がり込むようにを踏み入れたのだった。
「千尋! 返事をしなさい! 千尋!」
勝からを踏み入れた瞬、の夕暮れのぬくもりは完全に断ち切られ、気と濃密なが肌を刺した。 子どものの速さは侮れない。ほんの数秒の遅れだったはずなのに、すでに千尋の赤いウインドブレーカーの姿は、暗い廊のどこにも見当たらなかった。
俺はスマートフォンの画面を点灯させ、簡易ライトの頼りないで元を照らしながらんだ。
それにしても――と、俺は眉をひそめ、周囲の荒廃ぶりに息を呑んだ。