"廃墟旅館の双子と初恋の再会" 第3話
「……ほんとう?」
千尋は眉をの字に寄せ、俺の顔を窺うようにじっと見つめてくる。 「本当だよ。嘘なんてつかないさ。……でも、なんで急にそんなこと聞くんだ?」
俺が優しくを撫でながら問い返すと、千尋は指先をもじもじと絡めわせ、消え入りそうな声でぽつりと呟いたのだ。
「……お仕事ないのに、千尋には言えないのかなって……配だったの」
歳の子どもがにするには、あまりにも切実で、あまりにも残酷な気遣いだった。 玄関のにっていた母が、その言葉を聞くや否や、堪えきれなくなったように吹きした。
「ぶふっ……! あははは! 千尋ちゃん、なんていい子なのかしら!」
母は靴を履き直してがり框まで戻ってくると、しゃがみ込んで千尋のさな体をぎゅっと抱きしめた。 そして、俺の顔をこれ見よがしにジト目で見げながら、わざとらしいほどの甲い声で言ったのだ。
「千尋ちゃん、丈夫よ、何にも配いらないからねえ! この父親はね、『こんなクソ田舎、度と戻ってくるか!』って啖呵を切ってをてったくせに、都会でっ柱をへし折られてあっさり逃げ帰ってくるようなけない男だけどね、応これでものでパソコン叩いて働いてはいるのよ。……まあ、いざとなったらね、ばあばとじいじが、千尋ちゃんのことだけは責任を持って、何自由なく養ってあげるからねえ!」
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「……母さん、頼むから娘ので余計な過を蒸し返すなよ。あと、『千尋ちゃんだけは』って調するのやめてくれないか。俺のが々になる」
俺が力なく抗議すると、母は千尋の頬に自分の頬をすり寄せ、楽しそうに笑った。
「そうそう! 今はね、お仕事の帰りにスーパーで真っ赤な美しいイチゴを買ってくるからね! お夕飯のに、じいじとばあばと千尋ちゃんので、仲良くべましょうねえ!」 「わあーい! いちご! ばあば、だいすき!」
千尋はパッと顔を輝かせ、母の首に抱きついた。 がにおける孫娘のヒエラルキーは絶対であり、俺に対する扱いの格差は凄まじいものがあった。 だが、それも当然の報いだった。親の反対を押し切ってをびし、数まともに親孝もせず、あげくの果てに婚して娘を連れて転がり込んできたのだから、居候として雑に扱われるくらいでちょうどいいのだ。自業自得という文字が、痛烈にに染みていた。
「それじゃあ、本当に遅刻しちゃうわ。次郎、千尋ちゃんをちゃんと幼稚園に送り届けなさいよ。それから、おも仕事頑張りなさいね」
父と母は並んで玄関をてった。 ガラガラと引き戸が閉まり、で古い軽自のエンジンがかかり、ざかっていく音が聞こえる。 俺がを掻きながらちがると、千尋が俺のズボンの裾をちょんと引っ張った。
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「パパ、お仕事がんばってね」 「……おう。千尋も、幼稚園でしっかりお友達と遊んでくるんだぞ」
ちなみに、俺は本当にちゃんと働いている。 を卒業して京して以来、俺はずっと都内の居酒チェーンでホールや厨の仕事を続けてきた。無休で夜まで営業するハードな環境だったが、接客の基礎やととの対話の微はそこで徹底に叩き込まれた。 その経験を買われ、現は通販会社や融サービスのカスタマーサポートを請け負う委託企業で、完全宅のコールセンター業務を担当しているのだ。
パソコンと専用のヘッドセットさえあれば、方の田舎のからでも問題なく業務はこなせる。 ただ、以京にいた頃の俺は、居酒勤務だったため夕方から夜にかけてを空けることがく、もほとんど仕事でだった。その当の父親の姿を記憶していた千尋にとって、平も休ものにいて、私のままパソコンに向かっている現の俺の姿は、どう見ても『職を失って部に引きこもっているな父親』に見えていたのだろう。
子どもの観察を甘く見てはいけない。 俺は苦笑いを浮かべながら、千尋を黄い幼稚園バスの留所まで送り届けたのだった。
そして――そのの夕方。 仕事を終えて幼稚園から帰ってきた千尋を迎え、俺は実の裏にある本庭園で、娘の遊び相をしていた。