"廃墟旅館の双子と初恋の再会" 第2話
信じられない景だった。 こんな気のない、崩壊しかけた廃墟の奥底に、いるはずのない。 自力で歩くことすら覚束ないような、まだ歳か歳そこそこの、本当にさな子どもたちの姿が、そこには確かにあったのだった。
このあまりにも奇妙で、運命な会いによって、俺はかつて自らの未熟さと傲さのせいで守れず、すべてを放りして失ってしまった『かけがえのない切なもの』を、もう度そので取り戻すためのい戦いへとを投じることになるのだった。
俺の名は、虎次郎(たけたに こじろう)。今で歳になる。 かつては、この温泉で何代も続いていた堅旅館の跡取り息子として、何自由なく育てられた男だ。
だが、の頃の俺は、典型な田舎の鬱屈を抱えた愚か者だった。 に囲まれ、娯楽も何もなく、顔をわせれば噂話と世話ばかりがび交うこの閉鎖な田舎の暮らしに、の底から嫌気がさしていたのだ。周囲のが当たりのように「おはいずれ、この旅館を継ぐんだからな」とにするたび、自分の敷かれたレールに対する反発ばかりが膨らんでいった。
歳になり、を卒業したの夜、俺は父親と喧嘩をした。 『こんなさびれた田舎の宿なんて、誰が継ぐか! 俺は京へて、自分の力で自由にきていく! もう度と、この町のなんて踏むもんか!』 見得を切り、唾を吐き捨てるように啖呵を切って、俺は着替えを詰め込んだボストンバッグつで夜列にび乗ったのだ。
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それから数。 京にてからの俺を待ち受けていたのは、自由などという甘っちょろいものではなく、ただ々の活費を稼ぐためにすり減らされる過酷な現実だった。 だが、度を叩いてをびした、音を吐いて実にをげることなど、でもできなかった。 そんなと見栄だけできてきた俺が――結婚活の破綻という痛い挫折をわい、逃げを失い、あろうことか『もう度と戻らない』と言い放ったその実へと、幼い娘のを引いて転がり込むように逆戻りしてきたのだ。
実の敷居を跨いだあのから半。 歳、バツイチ、子持ち。 俺は両親のややかな線と温かいけの狭で、これ以ないほど肩の狭い活を送る、けない男に成りがっていたのだった。
カチャリ、と鉢がテーブルに置かれる控えめな音が、朝の静かなダイニングに響いた。 計の針は午半を回ったところだった。 カーテン越しに差し込む柔らかな朝のが、使い込まれた茶い製テーブルのを淡く照らししている。
「じゃあ、虎次郎。お母さんたちは、仕事にってくるからね。留守番、よろしく頼むわよ」
母はエプロンをして丁寧に畳みながら、玄関の鏡に向かって髪をえていた父の背に声をかけ、それからこちらを振り返った。
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母の顔には、すでにこれから始まるのシフト労働に対する疲労のが、っすらと滲んでいる。 俺はダイニングチェアからちがり、隣に座っていた千尋のさなをそっと包み込みながら、さく会釈をした。
「ああ、気をつけてな。いってらっしゃい」 「ばあば、じいじ、いってらっしゃーい!」
千尋は子ので背筋をピンと伸ばし、両をのできくパタパタと振った。 そのさな体を包んでいるのは、所の型スーパーのワゴンセールで買った物のトレーナーだ。袖がしだけほつれかけているのを、俺は毎晩針と糸で補修して着せていた。
父が革靴の踵をトントンと鳴らして靴を履き終え、玄関のドアノブにをかけたその、千尋がふとを振るのを止め、議そうに首を傾げた。 その黒目がちな瞳には、相応な曇りが宿っていた。
「……パパは、お仕事にかなくていいの?」
千尋のそのさな問いかけは、あまりにも静かで、どこか慮がちだった。 俺は胸の奥をチクリと突かれたような痛みを覚えながら、千尋の目線にわせてそのに膝をついた。
「パパはね、おにかなくてもいいんだよ。ここにあるパソコンを使って、おのでお仕事をするからね」