"義母が突然、結婚指輪をくれた" 第23話
「奈緒さん」
背から声をかけられ、振り返ると、そこにはカメラを首からげた武田さんがっていた。
「武田さん! 来てくださったんですね」
「もちろんですよ。亮介の無の親友として、葵ちゃんのれ姿を見届けないわけにはいきませんからね」
武田さんは葵のにしゃがみ込み、目尻をげて満面の笑みを浮かべた。
「葵ちゃん、入学おめでとう。ランドセル、すごく似ってるよ」
「武田のおじちゃん、ありがとう! これね、あおいの好きな赤なんだよ!」
葵が得げにランドセルを見せびらかすと、武田さんは無量といった面持ちで、そっと目を拭った。
「……良かった。本当に、良かったですね、奈緒さん」
「はい。武田さんのおかげです。本当にありがとうございました」
入学式の始を告げるチャイムが、舎のスピーカーから鳴り響いた。
「入の皆さんは、保護者の方と別れて、昇から教へ入ってください」
先のアナウンスに従い、親子連れが別れを惜しみながらをしていく。
「ママ、いってくるね!」
葵は私のをすと、振り返り、最の笑顔を見せてくれた。
「いってらっしゃい、葵。しっかりを向いて歩くのよ」
「うん!」
さな背が、軽やかにねるようにして舎の玄関へと駆けていく。 赤の履きを履き、先に元気に挨拶をして、教へと消えていくその姿を、私は胸がいっぱいになりながら見送った。
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保護者たちが体育館へと移を始める、私はふと、何かに引かれるようにのへと線を向けた。
の向かい側の歩。 満の桜の太い幹のに、ひっそりと佇むの女性の姿があった。
の控えめなスーツを着た、神崎芳だった。
義母は内へを踏み入れることはせず、保護者の群れに紛れることもなく、ただくから、の隙を通して昇を見つめていた。 そのは、スーツのポケットの奥で、何かをぎゅっと握りしめているようだった。 きっと、あのの婚戒なのだろう。
義母の線の先には、教の窓から顔をし、友達と楽しそうに笑いっている葵の姿があった。
義母の元が、微かにいたように見えた。
『おめでとう』。 声は届かなかったが、その唇のきは確かにそういていた。
やがて、義母の線が、のにち尽くす私へと向けられた。
満の桜並を挟んで、数メートルの距。 私たちは、言葉を交わすこともなく、ただ静かに見つめった。
義母の瞳には、もう過の傲さも、れなすがりつきもなかった。 自分の罪と孤独を受け入れ、それでも孫のをくから見届けることを選んだ、のの静謐な覚悟が宿っていた。
私は、息をく吸い込んだ。
そして、義母に向かって、静かに、々と礼をした。
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それは、神崎のに屈した礼ではない。 過を乗り越え、娘にあの赤いランドセルを遺してくれた、の祖母に対する、最限の敬と境界線の礼だった。
義母もまた、胸元で両をわせるようにして、ゆっくりとくをげ返してきた。
桜のびらが、に乗ってのをい散っていった。
義母は顔をげると、度だけ葵のいる教の窓を名残惜しそうに見つめ、それから静かに踵を返した。 のを浴びながら、歩をで歩いていくその背には、確かな寂しさと、けれど凛とした落ち着きが漂っていた。
もう、彼女が私たちの活に踏み込んでくることはないだろう。 神崎の名という名の呪縛は、完全に過のものとなったのだ。
「奈緒さん、そろそろ式が始まりますよ」
武田さんの呼びかけに、私は「はい」と答えた。
空を見げると、抜けるような青空の向こうに、淡いが本、まっすぐに伸びていた。
私はトレンチコートのポケットからをし、胸を張って、体育館へと続く階段を歩き始めた。
私と葵の、誰にも奪われない、しいのが、今、ここから始まる。